
忘年会シーズンたけなわですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか? 現在、「続・魚どころの…」は高知編、自分も先日、土佐料理の店でちょっとした忘年会に参加したのですが、故あってひどい悪酔い…。 カツオの内臓の塩辛「酒盗」と、土佐の銘酒「酔鯨」だけで延々飲み続けたのがいけなかったようで、現地でこの組み合わせで飲んだときには果てしなく気持ちよく酔えただけに、つい慢心してしまいました。そういえば、旅先ではどんな飲み方をしても、なぜか悪酔いや二日酔いの覚えはほとんどない。何かの折に「食べ物は、食材がとれる土地、その料理が伝わった土地で食べるからこそうまい」と書いたことがあるけれど、酒も飲み親しまれている土地で飲めば、体にしっくり合うように出来ているのかも知れませんね。
酔って帰って、更新のためパソコンに向かい、打っているつもりが気がつくと熟睡。来週もこんな調子かも…。
四万十川河口の町・中村にある『季節料理たにぐち』での、四万十川の川魚料理の宴も、主役である天然アユの塩焼きに天然ウナギの蒲焼を頂いたところで、そろそろ終宴が近づいてきた。最後の清流・四万十川に敬意を表し、今宵は川魚三昧で海のお魚は一休み、のつもりだった。ところがこの中村、カツオで有名な土佐佐賀に、清水サバで知られる土佐清水と、高知有数の漁港の町も意外と近い。本日、晴れて高知入りしたこともあり、ちょっとばかり土佐の魚に表敬しておくのもいいかも。焼酎「大土佐」をもう一杯だけおかわり、そして本場のカツオのたたきも注文して、最後の肴と締めのご飯のおかずにするとしよう。
とはいえ、これまで結構いっぱい料理を頂いたので、あまり多いと食べきれるだろうか。注文する前におばちゃんに聞くと「一人前で6切れほどです」とのことで、ちょうど手ごろかな、と頼むことにした。長方形の角皿にのった数切れのつくりがくると思ったら、運ばれてきた大き目の丸い皿には隙間がないほど並ぶつくり、その上にたっぷりのった野菜と結構なボリューム。数えてみると、確かにつくりは6切れだが、箸でとってみるとひとつひとつがかなり大きい。普通のたたきの2.5倍はあり、平造りというよりはぶつ切りのよう。あまりに厚いので、食べやすいようにかタレが染みやすいようにか、間に切れ目を入れているほどだ。見た感じはカツオのたたきとは全然別の、大盛り海鮮サラダのような料理である。
カツオのタタキといえば一般的には、周囲を軽くあぶったカツオの刺身、という印象だろうか。そもそもは「焼き切り」という、土佐の漁師がとれた魚を皮付きのままあぶった料理がルーツとされ、生のまま食べるより皮と脂の旨味を引き出しているのが特徴である。高知では藁でいぶして香りをつけてから氷水で冷やして締め、酢醤油や二倍酢、柚酢など地域ごとに様々なタレをつけて頂く。薬味もタマネギやネギ、シソ、ワカメなど地域によって特徴がある中、ニンニクのかけらをかじりながら食べるのが本場流というか、豪快な漁師気質まる出しというか。そのカツオのたたきの、いわば原型とされているのが、この店で出している「塩タタキ」。店の品書きにも「昔ながらの」とあるように、古くからカツオ漁が盛んなこの地方の伝統的スタイルなのだ。
追加の「大土佐」と締めのご飯も運ばれてきたところで、それ肴だおかずだとつくりに箸を伸ばす。タレにつけて、薬味を添えて… といきたいところだが、出されたのはこの丸皿だけで薬味皿やタレの皿はない。というのも塩タタキは、つくりの上にタマネギ、ネギ、シソといった薬味が載せてあり、タレもあらかじめかけ回してあるのだ。これが普通のタタキの違いのひとつで、薬味とつくりを一緒に箸でガバッとつかんで、豪快に頂く。身はねっとり、ふっくらと、赤身独特のくせがなく優しい味といった感じか。タタキ独特のあぶった香ばしさは控えめ、薬味をつけないのでおろしニンニクやショウガの刺激もない分、カツオ自体の旨さがしっかり楽しめるようだ。塩タタキのもうひとつの特徴は、さくを火であぶった後に氷水で締めず、温かいうちに薄切りにして頂くこと。水揚げ港に近く、新鮮なカツオが手に入るからこその料理法で、仕上げには名の通り塩を振りかけ、上から軽く軽く押してなじませることで、カツオの持つ旨味を素直に引き出している。先ほど頂いた天然物のウナギと同様、今まで食べたカツオのタタキとはまるで別の料理のようである。
運ばれてきたときには量に少々驚いたけれど、柚子やシソの酸味が食欲をそそり、満腹に近いながらもすんなり箸が出て行く。ニンニクスライスもいっぱい添えてあり、ガリッとやると普通のタタキの味を思い出し、鼻息が荒くなりそうだ。3切れは「大土佐」の肴に、もう3切れをご飯のおかずに平らげれば、もうすっかり満腹。店を後に、中村駅に近い宿までの自転車が食後のいい腹ごなしになりそうだ。瀬戸内海、宇和海と漁港の町を食べ歩いてきたこの旅も、いよいよ土佐湾・カツオ一本釣り漁の基地である土佐久礼へ。その前に明日は早朝の涼しいうちに、四万十川を2時間ほどサイクリングする予定で、これまでの旅で食べ歩いて身についた分を燃焼してから? 乗り込むとしよう。(2006年8月6日食記)