
とある休みの日、昼過ぎに横浜駅で娘を預かり、3時間ほどお守りをすることになった。天気がよければひと駅電車に乗って、入園無料の野毛山動物園にでも行こうかと思っていたら、この日は気温が低い上にあいにくの雨模様。屋外に連れ出して風邪でもひかれたら大変、しかも給料日前なので映画とか遊覧船という訳にも行かず、高島屋やそごうなどのおもちゃ売り場をはしごして遊ばせて時間をつぶした。そうこうしているうちに午後3時、お散歩のおやつにはアイスクリームが欠かせない娘に、そろそろ何か食べさせなければご機嫌が悪くなる頃合いである。そういえば自分も、昼飯を食べる前に娘を預かったので、結構腹が減ってきた。
駅西口の地下街「ザ・ダイヤモンド」を歩いていると、ケーキやパフェなどが食べられるようなパーラーや喫茶店はいくつかあるものの、幼児と父親の二人、という組み合わせで入れる店が意外とない。どこも買い物客で混んでいたり、煙草の客が多かったりと、なかなか決まらないままメインの通りからどんどんと細い通路を奥へ。人通りが少ない横浜ベイシェラトンホテルあたりまで来たところで、うまいこと空席がある店を見つけた。店頭のショーケースにはスパゲティのメニューが並び、デザートもいくつかあるよう。人混みの中を長々と歩かせてしまい娘もお疲れのようなので、このお店ならアイスがあるよ、と誘って店内へと入ることに。
食事の時間を外れているから、地下街のかなりはずれにあるからか、店内にはほかに客の姿は2組ほどしかない。子連れだと空いているほうが何かと落ち着くので、これはありがたい、と席につく。内装は和風のテイストで、中間照明で落ち着いた雰囲気。内装だけでなく、品書きを広げるとスパゲティも和風のものが中心である。おろしなめたけ、明太子とあさりと海老の京風だし仕立て、たらこバターと水菜、中には伊達鶏と蓮根の湯葉クリームソースなんてのもあり、トマトソースやぺペロンチーノといったオーソドックスなほうが少ないぐらいだ。
新宿に本店があるこの『赤とんぼ』は、品数の豊富さと値段の手ごろさで女性を中心に人気の高い店だ。店名に「日本のすぱげてぃー」と冠するように、細麺のスパゲティを使った和風のメニューが売りで、日本独自の食材や調味料を、本場イタリアのパスタと合わせたメニューが各種並ぶ。スープとデザートつきの赤とんぼセット、サラダつきの夕焼けセットなど、お得なセットメニューが豊富なのも人気の秘訣。自分の底抜けの空腹と、娘のおやつのリクエストの両方をうまく満たすセットを探した結果、スパゲティにドリンク、デザート、スープ付きのセットでスパゲティを大盛りにしてもらうことにした。セットのデザートをおやつがわりに娘にあげればこれだけですむので、財布の中身がさびしい身としては大変助かる。
セットのスパゲティはすべてのメニューから選ぶことができ、迷った結果和風メニューでなく、赤とんぼ風のカルボナーラにした。しばらくして運ばれてきたのは、ベーコンにクリームソースのシンプルなスパゲティで、中央に落としてある玉子の黄身が鮮やかだ。皿は朱塗りの盆の上に置かれ、フォークでなく箸で頂く仕組み。はやりの和風ダイニングの雰囲気である。そばのように細麺を箸でたぐると、クリームソースのからみがよく、とろけるようなソースがなかなか。ベーコンの塩味とコショウがよく効いていて、なめらかな味わいにいいアクセントになっている。麺はやや固めにゆであがっていて、シコシコと腰がありしっかりとしたいい味。スパゲティといえばどちらかというとソースが味の決め手だが、ここのはそばやうどんのように、麺の味がしっかり味わえるのが日本風なのだろうか。
デザートは練乳アイスと黒蜜ゼリーのデザートで、お目当てのアイスがあったので娘は満足そうだ。パッと平らげてしまい、まだ何か欲しそうな様子である。ドリンクのリンゴジュースもあげるけど、ママとお兄ちゃんが聞いたらうらやましがるから内緒だよ、と言い聞かせてみるが、楽しかったことはすぐしゃべっちゃうから困りもの。娘が父親と差しで食事に付き合ってくれるなんで、一体いくつぐらいまでだろう… なんてことに思いをめぐらすには全然早いか?(2006年3月食記)