全国の漁港の街を巡っていると、たまに「市場のラーメンはうまい」という少々伝説めいた評判を耳にすることがある。築地でも同様だが、一般的なラーメン屋と市場のラーメン屋では、客層も求められるものも異なるため、どっちがうまいかなどと一概には比べられない。というのも築地のラーメン、主なお得意様は忙しい河岸の労働者たちで、注文してから出されるまでの早さが、味と同レベルに要求されるのだ。場内や場外の狭い厨房で、こうした時間に追われる客を未明からどんどんさばかなければならず、労働食だけに食べやすく飽きのこない味であることも大切。醤油ベースなどあっさりしたスープが中心で、具もネギとチャーシュー程度と、築地のラーメンの多くがシンプルで軽い味わいが特徴なのは、観光客や買い物客向けではなく、毎日食べにくる築地で働く人に合わせた「日常食」だからである。

 新大橋通り商店街にある店は、どこもカウンターだけの小さい店であることは何度も紹介したが、この日訪れた「若葉」はその中でも最小かも知れない。何とカウンター3席だけ。たまたま座れたが、他の客と3人だけでラーメンをすするのも何だか妙な気分だ。ここの看板は中華そばで、頼むとすぐにカウンターへ丼がドン、出てくるまでさすがに早い。忙しい河岸の労働者に合わせ、早くゆであがり食べやすいという極細のちぢれ麺のおかげである。

 さっそく細めの麺をズルリとひとすすりすると、結構固めでバリバリした歯ごたえ。ちぢれているのでスープによくからみ、なかなかいける。スープはカツオに豚骨を加えてダシをとってあるためこくがあり、しっかり効いた醤油味のおかげであっさりと仕上がっている。スープだけ飲んでみると、香りがよくやや辛目。肉体労働者向けに、塩分を濃い目にしているのだろうか。3枚のったチャーシューはまろやかでやや甘めの味わい。薩摩麦豚をじっくり煮込んで炭火で焼いてあり、以前「井上」で食べたラーメンと同様、焼豚というよりはゆで豚肉に近い。これが築地のラーメン屋のチャーシューのスタイルなのだろうか。

 麺は大盛りでスープも熱々だから、がんばって食べ進めるものの意外に減っていかない。もたもたしているうちに、麺の最後の方は少々もったりした感じに。ゆであがるのが早い麺は、のびるのも早い。築地のラーメンを最後までおいしく頂くには、魚河岸流の早食いが必須条件のようである。(2004年6月3日食記)