
福井からえちぜん鉄道で45分。九頭竜川の河口に開けた三国は、明治中期まで北前船の寄港地として栄えた港町である。かつての回船問屋や遊郭など、格子が美しい町並みをぐるりと散歩したらちょうど昼時。三国の名物といえば三国港で水揚げされる越前ガニだが、それは今夜泊まる料亭旅館でのお楽しみ。お昼は軽く済ますことにして、もうひとつの名物、三国のそばの名店「新保屋」を訪れることにした。
別添えのつゆに浸して頂く一般的なそばと違い、越前地方のそばは陶器の皿に盛って、上からつゆをかけるスタイルである。中でも評判が高いのが「おろしそば」。この店でも人気のようで、ほとんどの客が頼んでいる。大と小の2つの大きさがあり、地元の人は小を頼んでお代わりしているよう。こちらも土地のスタイルに合わせて、まずは小をひとつ注文してみることに。
しばらくして小振りの皿に盛られたそばと、鉢に入ったつゆがそばと別に運ばれてきた。つゆを自分でそばにかけて食べる仕組みである。金津産と丸岡産の地元のそばに、青首大根に辛味大根を混ぜて使ったおろしそばがこの店の特徴で、薬味はネギとカツオ節で、肝心の大根おろしが見当たらないが、つゆをさっとかけてひとすすりすると、大根の青臭さと辛みがツンツンと強烈。三国のおろしそばは大根下ろしをのせるのではなく、つゆに入れて生醤油で味付けして使っているのである。
さらにこの店では、つゆに入れるのは大根の汁のみで、繊維はとりのぞいてある。だから大根の香りがより鮮烈、醤油やダシの味はあまり感じないほどである。「汁だけ使うと、大根の量がたくさんいるから大変だよ」とご主人が苦笑する。削りたての荒削りのカツオ節の香ばしさが際立っていて、さっぱりとどんどん進んで小皿をさらにおかわり。辛味に慣れてつゆだけ飲んでみると、とがった辛さの中にほんのり甘みがある。
結局、小皿を4つ平らげて、大根汁を加えたそば湯を頂いてひと息。以前福井で食べた、揚げたカツを卵でとじずにそのままのせたソースカツ丼は、信州の駒ヶ根と福井で共通するスタイルだったが、考えてみればそばも信州と越前それぞれの名物。内陸の山国と日本海に面した土地と気候風土は対照的だが、どこか食文化に共通するところがあるのかも知れない。(2005年3月8日食記)