「つまをめとらば」青山文平(文春文庫)

 

 

江戸時代の武家を描いた短編集

 

太平の世

戦乱の時代は遠くなり

そつなく大過なく

自分の家の存続を図ることが最優先の武士の世界で

 

身分に縛られる窮屈さや経済的な制約の中で

そこに生きる武士やその妻が

思いがけないほどに自分らしく生きている

 

そんな姿がどことなくユーモラスに

ほんのりとあたたかく描かれていて

読み終えた後の手触りみたいなものが

なんともいえず心地いいのです

 

 

以下、各話の感想をいくつか

 

「乳付」

出産後、なかなかお乳が出ないことに悩む旗本の妻が

自分の息子に授乳してくれる親族の女性にモヤモヤする話

「わたくしは悋気いたしました」と告白する彼女がなんとも可愛らしい

 

「逢対」

無役の旗本の就職活動

本人たちは人生と生活をかけて臨んでいるのだが傍から見ればなんとも滑稽な慣習

そこをするりと通り抜けていく主人公の身軽さがなんかいいな、と

 

「ひと夏」

藩士より村人の方が威張っている "厄介な村"

そこに赴任した若い藩士が村の流儀に逆らわずに過ごした夏の日々

ひと夏を過ごしてみれば「村を見る自分の目」の方が変わっていることに気づいて

それはそれで悪くないと思っている様子がなんとも可笑しい

 

 

 

 

ツツジ ~4月咲き始めの頃~