「絶滅危惧個人商店」井上理津子(ちくま文庫)

 

 

「絶滅危惧個人商店」?

ナニソレ面白そう、と軽い気持ちで読んでみました

 

 

ここで取り上げられているのは

ごくごく日常的な食品や靴や洋服や文房具などを扱う店

さらに書店や花屋、質屋に銭湯・・

東京の下町で暮らす人々の普段の生活に溶け込んでいるお店ばかりですが

 

そんな個人商店の中でも

長く地域に根付いて商売を続けているお店を取材して

店主やご家族や従業員、ときにはお店の常連さんの話まで聞いています

 

お店の来歴

創業者のこと、家族のこと

戦前、戦中、戦後の生活

バブルの時代、バブルのあと、これからのこと

 

 

東京の下町でたくましく生き残っている「名店」には

生き残るだけの理由があって

 

個人商店とはつまり専門店に他ならないわけで

そこには "痒い所に手が届く" きめ細やかなサービスや

人と人とのつながりの中で生まれるちょっとした心配りがある

 

今の生活は、ネット通販で買い物をすれば

誰かと煩わしく接触する必要もないし

スーパーに行ってもセルフレジで済んでしまうこともしばしば

 

でもそんな時代だからこそ

ここに登場するようなお店を求める人もたくさんいるのだろうな、と

 

 

そしてそれぞれの店の歴史やそこに生きる人々の記憶はそのまま

明治、大正、昭和、平成、さらに令和に至る庶民の歴史でもあるのです

 

きっと歴史の教科書には載ることはない

学術的に取り上げられることもないかもしれない

 

けれど、この本の中に書かれていることは

歴史を目撃した人々の証言としてずっと語り継いでほしい内容ばかり

 

 

作者はきっと "聞き上手" な方なんでしょう

取材を受けた商店の人々が懐かしい記憶を掘り起こしてあれこれ語ってくれる様子も

そのお店での商売の様子も生き生きと描かれていて

 

絶滅が危惧される心配なお店の話ではなく

時代の流れの中にしっかりと根を張った頼もしいお店の話を

楽しく面白く読むことができました

 

 

(田舎でがんばっている個人商店の取材もしてみてほしいな、とも思ったり)

 

 

 

 

 

金のなる木(オモシロイ名前キラキラ)に花が咲きました

数年前、うっかり霜にあててしまって枯れたのかな?と思っていたら

何事もなかったかのように復活して花まで咲くようになりました(強い!)