「院内カフェ」中島たい子(朝日文庫)

 

 

病院のカフェというちょっと特殊なロケーション

そこにやって来るお客さんたちは

少しばかり一般のカフェとは違っているようで・・

 

奇妙な言動を繰り返す小柄な男

サンダルの音を響かせながらやってくる横柄な医師

妻からソイラテをぶちまけられてしまった夫・・などなど

 

そんなお客さんたちの様子を伺いながら

チェーン店としてのマニュアルに沿って

ほどほどの距離感で対応する店員たち

 

 

患者も医者も健康な人も

ときには変な人も来るけれど

来る者すべて拒まずに受け入れてくれる

 

病んでいる人がいつでも立ち寄れて

でも、治療をする場所ではないから

提供されるメニューは通常のお店と変わらないし

病院向けの特別なマニュアルがあるわけでもない

 

 

病院の中にあるけれど

病院ではない空間がそこにある

 

そんなカフェのあり方が

そこでバイトしている亮子(主婦兼売れない作家)や

夫の入院に付き添ってやってきた朝子にとって

どこか心を癒される場所になっているのかな、と

 

 

亮子にも、朝子にも

他人にはわからない事情があって

悩みを抱えているけれど

 

カフェで顔を合わせる2人は

単に、お客と店員という関係にすぎない

 

亮子が日々接客する多くの人たちも

朝子がたまたま相席になった見知らぬ男も

ほんのわずかな時間をそこで共有するだけで

それ以上の関係は生まれない

 

 

カフェという場所は、本来

見知らぬ人と居合わせても

見知らぬ人のまま、すれ違っていく

そんな場所であるのだろうけれど

 

物語の最後に

そのとき、たまたま居合わせた人たちに

ちょっと粋なクリスマスプレゼントを贈ってくれた謎の人物がいて

 

もしかして、あの人かな?、と思いつつ

そんなお楽しみを用意してくれた ”誰か” の粋な計らいに

ついついニヤニヤしてしまうのでした

 

 

 

 

(ほぼ)10月の本箱