「江戸染まぬ」青山文平(文春文庫)

 

 

江戸時代を舞台にした短編集

 

表題作「江戸染まぬ」

前藩主の子どもを産んで里に戻される下女と

その下女を送り届けることになった一季奉公の男

男の勝手な ”思惑” の向こうにある下女の ”思い”

ラストは思いがけない方向に転がっていく

 

「町になかったもの」

これは、江戸時代に限らず、現代でもありそうな話

ウチの田舎市にコンビニが初出店したのっていつだっけ?

なんて、そんなことを思いつつ・・

 

「いたずら書き」

このお殿様、面白い、と最後に笑ってしまった

側仕えの主人公は大変だな、と思ったけどww

 

 

その他ーー

 

決して裕福ではない旗本の妻

厄介叔父とよばれる、いわゆる部屋住みのまま年を重ねた武士

思いがけずも罪を犯して江戸から追放された一家の次男坊

 

そんな名もなき人々の視点で、その一人称で語られる

日常だったり、事件だったり

 

何か、スカっとするようなオチがあるわけでも

ほっこりするような人情話というわけでもなく

 

 

「常温の日常をリアルに描いた小説」と作者は言います

 

「当たり前の日常」ーー

武家は武家の、町人は町人の、そうでない者はそうでない者の

定められた枠組みの中での、いつも変わらない日々の暮らし

それが、「常温の日常」ということでしょうか

 

語り手の語る言葉は

その人物が生まれ育った環境の中で身に着けたもの

その感覚や振る舞い方は

その人物の日頃の生活の上にあるもの

 

だからこそ

語り手の視点で、語り手の言葉で語ることで

よりリアルな人物像を描き出すことができる

そういうものなのかもしれません

 

 

また数年後にこの本を読んでみたら

受け取り方、感じ方が変わっているかもしれない

そんなことを思ったりしました

 

 

 

 

デュランタの花がようやく咲き始めました(今頃?)