「王国崩壊」が迫っているという(時事通信フォト)

「王国崩壊」が迫っているという(時事通信フォト)© NEWSポストセブン 提供

 現職総理に遠慮するそぶりもなく自民党内から次々と「ポスト岸田」に名乗りを挙げる現状は、総理大臣の専権事項である「伝家の宝刀」衆議院の解散権を岸田文雄・首相が行使できなかったことに端を発する。それもそのはず、有権者の深刻な自民党離れは、総理の地元・広島1区にまで及んでいた──。【全3回の第2回。第1回を読む

【写真】岸田文雄・首相の長男で、秘書の翔太郎氏

長男が応援して惨敗

 広島1区内の海田町長選(昨年11月)、府中町長選(今年5月)で岸田首相が支援した候補が負け続けている。とくに府中町長選敗北のショックは大きい。隣県の島根1区補選で自民党が守り続けてきた議席を野党に奪われたばかりで、広島に波及させないために負けられない選挙だったからだ。

 そこで首相は長男で秘書の翔太郎氏をはじめ岸田事務所の秘書3人を送り込んで岸田直系候補を応援したにもかかわらず、保守系新人にダブルスコアに近い差をつけられた。

 岸田首相の支援を受けながらお膝元の町長選に敗れた川上翔一郎・元町議は本誌・週刊ポストの取材に「すべて私の力が及ばなかったためです」としつつも、岸田政権への逆風をどう感じたかの問いには、「それはなかったとは言えないとは思いますけど……」と口にした。

 

 地元議員の1人が語る。

「府中町は衆院の区割り変更で次の総選挙から広島1区に編入される。だから岸田さんは事務所を挙げた支援体制を組んだ。出陣式でも翔太郎さんが挨拶に立ち、選挙で一番注目されていた。しかし、有権者は冷ややかで“総理の威光”は全く通用しなかった」

 さらに、広島市議会でも“造反”が起きた。6月に自民党の若手市議が日本維新の会と組んで自民党会派とは別の新会派を結成、「自民離れの動き」と波紋を広げている。

 いざ総選挙となれば岸田首相の手足となって選挙活動を支える市議団の分裂は、広島でも首相の求心力低下が急速に進んでいることを物語る。

 地元の元自民党地方議員はこんな言い方をした。

「岸田さんは広島サミットまでは人気があったが、すっかり冷めた。今では岸田さんのポスターも自宅の塀に貼る支持者はほとんどいない」

 長年自民党を支援してきたという経営者が話す。

「商工会の飲み会で岸田さんの話になると、『(同じ広島出身の総理だった)宮沢喜一さんとはデキが全然違う』『あんなんで池田勇人さんや宮沢さんより総理でいる期間が長いんやから、悪あがきして見苦しい』とかボロクソ言われとりますわ」

 まるで「王国崩壊」前夜だ。

地元支持者から同情される総理

 もちろん、熱心な支持者も残っていて、岸田首相の行きつけの理髪店店主はこう話した。

「そりゃ地元にも岸田さんを批判する人はいますよ。岸田事務所の前にもそういう人が押しかけてくる。でも、お客さんと話をすると、“岸田さんがなにかやったわけじゃない”とか“安倍(晋三)さんの尻拭いをさせられている”だとか、みなさん同情的です」

 地元支持者から同情される総理というのも、それはそれで情けない。

 岸田氏の父・文武氏の代から秘書を務めた藤本裕保氏は、選挙に負けるとは思っていない。その“秘密”をこう語った。

「昔から、どんな逆境でも岸田さんは勝てた。だって敵(対立候補)がいないんだから。代わりがいないから選挙だけは勝つんです」

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 選挙分析に定評がある政治ジャーナリストの野上忠興氏の指摘(第1回記事を参照)の通り、岸田首相は有力な対立候補がいなかったから勝ってきただけなのだ。

 現在も立憲民主党や日本維新の会など有力野党は広島1区の候補を決めていないが、地元の有権者からは「岸田首相を落とせる候補」の出現を期待する声が高まっている。

 無党派層や若い有権者から名前が挙がる1人が、東京都知事選に出馬した元広島県安芸高田市長の石丸伸二氏だ。「都知事選の次は広島1区で岸田相手の戦いに名乗りを挙げてほしい」と地元商店主は話すが、

地元がこんなムードでは怖くて解散など打てるはずがない。

第3回に続く第1回から読む

※週刊ポスト2024年7月19・26日号