【靖国神社に落書き、放尿男】「日本は弱腰」「山口組に期待」中国での意外すぎる反応

 

靖国神社 Photo:PIXTA

靖国神社 Photo:PIXTA© ダイヤモンド・オンライン

 

東京・千代田区の靖国神社で、石柱に放尿するような動きをしたあとに落書きをして立ち去る男……こんな動画が中国で拡散、話題になっていた。日本で上がっているのはもちろん怒りの声だが、中国では賛否両論、さらには日本人からすると意外な反応も起きている。この男はいったい何者で、どんな狙いでこうした行動に走ったのか。(日中福祉プランニング代表 王青)

ある中国人男性が靖国神社で放尿、落書き

 先日、中国のSNSで一本の動画が大きな注目を集め、またたく間に拡散された。動画の内容は、東京都千代田区にある靖国神社で、神社名が書かれた石柱に上った一人の男が、石柱に向かって放尿するような仕草をした後、赤いスプレーで「Toilet」と落書きし、速足で現場を去っていく様子が映し出されていた。日本にも伝わり、怒りの声が上がった。マスコミ各社が「中国籍の男が靖国神社に落書き」と一斉に報道。日本の上川陽子外務大臣、中国外務省の毛寧報道官もこの件に触れる事態になった。

 一体、誰が、何のためにこんなことをしたのだろうか?

 やがて、詳細が明らかになった。男は「鉄頭」「アイアンヘッド」(以下、鉄頭)などのアカウント名を名乗る中国人で、中国のSNSで一定の知名度がある動画配信者だった。筆者も数回、彼がアップした動画を見たことがある。偽物の販売や不正な商法などを疑われる店や企業を撮影し、バッシングするものが多く、かなり激しいやりとりの内容であった。一見、「正義の味方」のようだが、彼に攻撃されたのは「ほとんどが底辺な人たち、社会的弱者のような人たちだ」というのが中国での定評となっている。そのため、彼の動画に対しては賛否が分かれ、単なる「売名行為」だと批判する人も多い。いわば、有名な“お騒がせインフルエンサー”的な人物なのである。今年2月、彼はライブ配信中に自慢げに売春の話をしたために告発され、全てのプラットフォームのアカウントを停止されていた。

 

 現在筆者は中国に出張に来ているのだが、この数日間、現地の人と会うたびにこの話になる。皆、口を揃えて「非常に卑劣な行為で、まったく賛同できない」「こういう行為は軽蔑する」と言うのだ。こうした生の声を届けようと思い、この記事を書くことにした。今回の靖国神社で彼が行ったことは明らかに犯罪行為であり、日本国民が憤慨しているのは当然だと思う。では、中国人はどんな反応を示しているのだろうか?

「鉄頭」は非常に計算高い人物

 実は中国社会において、「鉄頭」の行為は、一部のネットユーザーから「英雄だ」「よくやった!」と称賛されているものの、どちらかというと、批判の声の方が多く上がっている。例えば、こんな意見だ。

「まったく卑怯な男だ!どうせやるなら、夜ではなく、堂々と白昼でやれば男らしいが、結局小心者なのだ」

「愛国行為もクソもない、単なる目立ちたがり。これまでの悪評判を挽回したいだけだ」

 彼の本当の狙いは、“日本批判”を道具にして、「愛国」という名目で注目を浴び、閉鎖されたアカウントを復活させたかったのだろうという見方がほとんどだったのだ。

 

 中国では長年にわたり愛国(反日)教育を行っている上、昨年の福島第一原発処理水の海洋放出問題以来、日本は常に非難の的となっている。日本を批判することは、一番安全で、低コストで、知名度を高めやすく、SNSのフォロワー数を増やすためにもっとも効果的で便利なツールなのだ。しかもだんだんとエスカレートしてきて、ネットでは「愛国ビジネス」「反日はファッション」という言葉が出回っているほどである。「反日活動」の競争が激しくなるにつれ、手段や中身が段々と低俗になってきた。

 

今回の靖国神社での騒動は、まさにこうした動きを象徴する事例といえる。

「鉄頭」本人は、よく分かった上で行動している。つまり、たとえ日本で捕まっても、日本は民主国家であるため、法に基づいて対応され、厳罰を受けることはない。まずは靖国神社が被害届を出し、警察に受理されたら、「器物損壊」あたりの罪に問われるだろう。拘留や罰金などがあっても、別に大したことはない。その代わり、彼は国に戻ったら、注目を浴びることは間違いない。英雄のように扱われるかもしれない。うまくいけば、SNSのアカウントが復活し、EC販売などのビジネスを再開できる可能性も期待できる~こうした考えを見透かされ、中国のSNSでは「彼は非常に計算高い」と見る人たちがたくさんいたのである。

 

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 そして、次のような書き込みも多く見かけた。

 

「こんな前科のある人なのに、よく日本に入国するビザが取れたね。ビザ審査は形だけなのか?」

「靖国神社のような大事な場所、監視カメラの一つくらいは普通に付けるだろう。驚いた……」

「日本の警察は動きが遅い。多分、捜査していると(口先で)言うだけで、結局何もできないだろうね」

 このように、日本政府や警察の不備を指摘する声も少なくない。さらには「日本の警察は頼りないので、山口組が手を出すんじゃないの? 期待している」というようなコメントも散見された。

 ここで「山口組」の名前が挙がるのは日本人にとっては意外かもしれない。実は、中国人の中には「日本の暴力団は、反社会組織でありながら、一般市民に決して迷惑をかけない。義侠心を持つ侠客だ」というイメージを持っている人が少なくないのだ。筆者もこれまで度々、いろいろな中国の知り合いから同じことを言われてきた。一番印象に残っているのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災の際に、暴力団員が震災地に支援物資を届けたり、ボランティア活動を行ったりしたという噂が中国で広がっていたことだ。

 さらに、これまで一部の在日中国人が起こした数々のトラブルに、日本の警察がどのように対応してきたかが動画を通じて中国のSNSで広がり、「日本の警察は優しすぎる、頼りない」というイメージを定着させた。“警察より暴力団のほうが力になる“だなんて、勘違いだとしても皮肉な話である。

彼の行いは愛国どころか、中国に泥を塗ったようなもの

 話がちょっと脱線したが、「鉄頭」は、今回行ったことの理由として、福島第一原発の処理水放出への抗議のためだと主張していた。かつて中国の国営テレビ放送局であるCCTV(中央電視台)の有名な記者であり、現在日本在住の王志安氏(https://diamond.jp/articles/-/310835)は、「それならば、東電や政府官邸に抗議へ行くべきだ。靖国神社を選んだのは、日中両国にとってセンシティブな場所であるため、注目度が一気に上がるからだ」と指摘している。

 今回のこのあまりにも下品な行為は、さすがに中国政府にも顰蹙(ひんしゅく)を買ったようだ。中国政府の報道官は「靖国神社は日本軍国主義が発動した対外侵略戦争の精神的道具とシンボルだ」とする一方、「外国にいる中国国民が現地の法律や法規を遵守し、理性的に要求を表現するよう改めて注意する」と、不適切な行動を控えるよう呼びかけた。重要なのは、後半部分の見解だ。

 

 中国国内でも、元中国共産党機関紙・人民日報系『環球時報』の編集長で、中国版Twitterである「Weibo」に2500万人のフォロワーを有する胡錫進氏は、「この種の売名行為は、私たちの主流社会が推進する愛国心とは何の関係もないと言わざるを得ない」と一蹴した。

 また別の著名な時事評論家は、「今回のこの騒動は、愛国どころか、我が国に泥を塗ったようなものだ。今後、愛国者を自称するインフルエンサーたちがマネをして、模倣犯が出てくる可能性があるし、外交問題にも発展しかねない。両国に害を与えることを危惧する」と警鐘を鳴らした。さらに「『鉄頭』は悪い手本を示した」と懸念を表明したのである。

 なお、多くの在日中国人が、今回の件に対して腹立たしく思っている。「我々にとっては大きな迷惑だ。周りの日本人から変な目で見られかねないし、板挟みになる」「本当にやめてほしい」といった具合だ。こうした犯罪行為を真似する人が今後現れないことを、心から祈る。