超絶決算のトヨタ社員ですら、賃金は“実質ダウン”!「値上げが浸透すれば、いずれ賃上げ」は大ウソだった…社員への負担で成り立つ「大企業最高益」の正体

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現代ビジネス

 

 好調な企業業績と賃上げ圧力を背景に、今年の春闘では満額回答が続出し、連合の直近の集計でも5.17%(前年同期比1.5%増)と、高い賃上げ率となっている。新入社員の給与も一気に5万円程度の引き上げを発表する企業も複数、出てきている。 

「賃上げ」される人は限定的

 しかし、賃上げの対象はあくまで一部だと見るのが、『書いてはいけない――日本経済墜落の真相』の著者で経済アナリストの森永卓郎氏だ。  「大幅な賃上げと言っているのは全労働者の2~3割にすぎない大手企業に限られていて、それすら利益水準を考慮すると、分配率はまだまだ少ない。中小も今年はベアを行った企業は少なくありませんが、物価上昇率を超えるベアは限定的です。  直近では、物価変動分を反映した実質賃金が円安もあって『24ヵ月連続でマイナス』だと話題ですが、実は長期的にも1997年からずっと右肩下がりなのです。しかも、税金や公的負担の増加を考えると、1988年と比べた場合は名目値ですら、現在の方が可処分所得は少ない。国民の生活はますます悪化していて、モノも買えないし売れない。この状況では、実質賃金は上がるわけがないのです」(森永氏)  実質賃金の長期的な低下は、女性や高齢者の非正規雇用などの就業者増加で押し下げられたという要因もあるが、逆に言えば、正規雇用の求人が少なく、賃金もほとんど増えていないという裏返しでもある。

株価4倍の経済でも生活が苦しいワケ

 企業業績を反映する株価は、1万円前後で低迷していた「悪夢の民主党時代」と言われていたころから、12年で約4倍になった。  しかし、実質賃金ではむしろ民主党時代より10%程度下がってしまった。社会全体で労働分配率が下がってしまったのだ。  森永氏が続ける。  「そもそも企業の最終利益と従業員の賃金はシーソーの関係で、経営合理性で言えば、労働者の賃金は抑えるほうが企業の利益にとってはプラスになります。  そして今は会社が儲かっても、非正規雇用や外注化して人件費を抑制でき、事業ごとに子会社化して賃金水準を抑えたり、成果主義を取り入れて結果的に賃金が減ったり、黒字でもリストラしたりと、企業の最終利益は、様々な手段で人件費を抑えた結果でもあるのです。会社が成長したところで、労働者にとっては、子会社の安い求人が増える程度です。  会社による春闘の『満額回答』に、昔のような意味はもはやありません。実際、企業の利益は株主還元と内部留保にあてられ、東証全体で年間配当は、この10年で約3倍の16兆円。内部留保もこの20年で2.5倍となり550兆円を突破しているわりに、たいして設備投資にも使われず、金融資産としても多く残っています」  また、海外子会社の配当など、金融収支を加えた「経常収支」では、近年は5兆円以上のプラスで推移し、23年度はなんと25兆円超の黒字だった。結局、企業がどれだけ利益を上げようが、インバウンド政策で外貨を得ようが、それが昭和時代のように賃上げに結びつく仕組み(続編で詳述)はもうないのだ。  実際、日本企業で断トツの利益を叩き出し、世界一の自動車メーカーであるトヨタの社員にしても賃上げは限定的で、物価や公的負担を反映した実質的な可処分所得では下がっている状況だ。