東京15区補選出馬の乙武洋匡氏「女性との不適切関係」払拭なるか 岸田政権の命運左右

衆院東京15区補選に出馬する作家の乙武洋匡氏(中村雅和撮影)

衆院東京15区補選に出馬する作家の乙武洋匡氏(中村雅和撮影)© 産経新聞

衆院東京15区補選(16日告示、28日投開票)に作家の乙武洋匡氏(47)が出馬を調整している。小池百合子東京都知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」が国政進出に向けて設立した「ファーストの会」が擁立する。自民党は独自候補の擁立が難航し、乙武氏に相乗りする方向だが、乙武氏とは平成28年参院選で自民が擁立を調整したものの、女性5人との不適切な関係が発覚し、断念した因縁がある。乙武氏がこうしたイメージを払拭できるかも焦点だ。

小池氏「誠実な活動を確認」

「私自身が素行不良だという指摘は間違っていない。ただ『障害者』という属性によって役割を制限したりする表現は一考いただければ」

乙武氏は3月30日、X(旧ツイッター)で、日本維新の会の地方議員の書き込みに対し、こう反論した。地方議員は乙武氏の同補選出馬について、乙武氏の障害者という属性を挙げて揶揄したと捉えられかねない投稿をしていた。

乙武氏は29日にファーストの会副代表に就任した。乙武氏も都民ファの政治塾で講師を務めるなど、同会と関係が近かった。小池氏も同日の記者会見で、乙武氏について「インクルーシブな社会を体現し、実現する人物で、お声がけし、本人もそれに臨んでいきたいという意思だ。日本のゲームチェンジを担っていくのに、ふさわしい方ではないか」と述べた。

乙武氏は先天性四股欠損症(生まれつき両腕と両足がない)という大きな障害を抱え、車いすで活動する。平成10年、早大在学時に出版した「五体不満足」がベストセラーになった。スポーツライターや小学校教員などを務めながら、28年7月の参院選では自民が東京選挙区から2人目の候補者として調整した。しかし、同年3月に週刊新潮に「5股」での不倫が報じられ、最終的に出馬は見送られた。乙武氏は令和4年7月の参院選東京選挙区に無所属で出馬したものの、落選している

今回の出馬にあたり、焦点となるのは乙武氏の過去の醜聞だ。小池氏は3月29日の記者会見で、「二度とそういう過ちを犯さないということで、以来、誠実な活動を続けているということを確認している」と強調した。

勝敗は岸田政権の命運を左右

同補選の実施は公職選挙法違反事件で有罪が確定した柿沢未途被告(自民離党)の議員辞職に伴うもので、自民は派閥の政治資金パーティー不記載事件など「政治とカネ」で逆風下にさらされていることもあり、独自候補の擁立は困難な状況だ。自民幹部は「ファーストの会の候補に相乗りさせてもらうしかない」と明け透けに語る。

最近の乙武氏は、自民側とも良好な関係を築いている。5年10月、フェイスブック(FB)などで、岸田文雄首相の長男の翔太郎氏や自民の小林史明衆院議員らと一緒に広島を訪れ、瀬戸内海を観光した様子などを報告している。同年11月は首相の政治団体で「高額会食」が多数あったとする報道に対し、乙武氏がXで「居酒屋やファミレスで会食をしろとでも言うのでしょうか」と記すなど〝援護射撃〟する場面もあった。

PR党執行部でも、乙武氏への懸念が完全に消えたわけではない。茂木敏充幹事長は、自身が選対委員長時代に乙武氏の参院選出馬断念という苦い経験をしただけに、乙武氏の推薦に慎重な態度を示したこともあったという。

自民党都連は、ファーストの会の候補を自民が推薦すること自体に複雑な心境を抱える議員もいる。ある自民都議は「日頃選挙で戦ってきた都民ファーストの会関係の幹部を応援しろとなった際、地方議員はまだしも、その先の支援者に納得してもらうのは容易ではない」と漏らす。

今回の東京15区補選は、岸田文雄政権の行く末も占う重要な一戦となる。自民は同時に行われる衆院長崎3区補選で不戦敗を選ぶ方向だ。もう1つ、同じ時期に実施される衆院島根1区補選は野党系候補の一本化が図られ、自民の新人候補の苦戦が伝えられている。野党系候補が乱立している東京15区は、3補選のうちで自民系の勝ち星が最も見込めそうな選挙でもある。ここも落として全敗となれば、首相の求心力がさらに低下し、政権がレームダック化する可能性さえある。

東京15区補選は日本維新の会が新人の金沢結衣氏(33)を、共産党は新人の小堤東氏(34)を、参政党は看護師で新人の吉川里奈氏(36)を、政治団体「日本保守党」はイスラム思想研究者の飯山陽氏(48)をそれぞれ擁立する。立憲民主党も前江東区議の酒井菜摘氏(37)を擁立する方向で調整に入っている。(奥原慎平)