答弁でもしどろもどろだった少子化対策担当大臣・加藤鮎子氏(時事通信フォト)

答弁でもしどろもどろだった少子化対策担当大臣・加藤鮎子氏(時事通信フォト)© マネーポストWEB 提供

 政府が少子化対策の財源とする「子ども・子育て支援金制度」をめぐる政府の説明が迷走している。「実質負担ゼロ」と強調してきたが、説明は二転三転。野党の追及を受けパニック気味になった少子化対策担当大臣の加藤鮎子氏の答弁もあいまって、岸田文雄首相肝いりの「次元の異なる少子化対策」は、裏金問題に続く政権の火薬庫になりかねない状況だ。

 支援金制度は、企業や個人が支払う公的医療保険に上乗せして国民から拠出金を徴収し、財源に充てる仕組みだ。政府が徴収する額は1兆円。制度開始の2026年度は6000億円からスタートして段階的に引き上げる、とされている。

 3月12日の記者会見で法案審議の進め方について問われた加藤氏は手元のメモに目をやりながら、「社会保障制度の改革等によって歳出改革効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を講じる」と述べ、「全体として実質的な追加負担は生じない」とあらためて強調した。

 

 支出を減らし、本来ならば相当分の医療保険料の減額に充てられる分を「支援金」に回すから、保険料を支払う国民に新たに負担が生じるわけではない、という説明だ。だが、社会保障改革がそんな首尾よく進む保障があるわけもなく、実質負担増になる疑念は膨らむばかりだ。

「未婚化の原因」を問われ、資料を探して「少子化の原因」を読み出す

 実際、政府の説明はコロコロ変わるのだ。2月6日の衆議院予算委員会では岸田氏は「粗い試算」と断わりながら「(徴収総額が1兆円に達する)2028年度には、加入者1人あたりの拠出額は月平均500円弱」と答弁したが、加藤氏がその前段階の2026年度と2027年度の数字(それぞれ300円弱と400円弱)を明らかにしたのは8日も経過した2月14日になってからだ。

 さらに8日後の2月22日の加藤氏は、1人あたりの負担額が「支援金の拠出が月額で1000円を超える人がいる可能性はありうる」と答弁して議場は騒然。加入する医療保険制度や所得に応じてどれだけの幅が生じるのか、その見通しもなかなか明らかにならない。

 当の担当大臣、加藤氏の“力量”にも疑問符がついている。3月4日の参院予算委員会で未婚化の原因を問われた加藤氏は、「あの……未婚化の原因につきましては、えーと……」と、約30秒間にわたって沈黙。少子化対策の前提となる初歩的な認識すら自分の頭の中になかったのか、答弁席で資料から該当の部分を探し続けた。

 しかも、「見つけた」とばかりに読み上げ始めたのは、なんと「未婚化の原因」ではなく、「少子化の要因」。答弁資料に列挙された「経済的な不安定性」「出会いの機会の減少」など7つも8つも棒読みされては負担を強いられる国民はたまったものではない。

招致段階から建設費がはね上がった「国立競技場問題」の再現に

 加藤氏は宏池会会長だった加藤紘一の三女。岸田氏にしてみれば宏池会の血の濃い派内の“身内”に肝いり政策の実行役を委ねたかたちだが、国民負担をめぐる側近閣僚の迷走は、政権の致命傷につながることがある。

 たとえば第2次安倍晋三内閣で東京五輪のメーン会場だった新国立競技場の建設計画の実行を委ねられた下村博文・文部科学大臣(当時)。招致段階では1300億円だったものが、下村氏の担当下で建設費はことあるごとにはね上がり、最終的には2520億円まで膨れ上がって批判が集中した。土壇場の2015年7月、安倍氏自ら裁定して白紙に戻したが、直後の8月の内閣支持率は、最低の37%(NHK)まで落ち込んだ。

 奇しくも「政治とカネ」をめぐる問題で、岸田内閣は内閣発足以来の支持率低迷を続ける。新たな側近の火種は、政権の致命傷ともなりかねない雲行きだ。