山髙龍雲 風に吹かれて -716ページ目

すわったままで

知らない土地を歩くことが旅であるなら 

通り過ぎた刻々を振り返ることもまたひとつの旅

今は目にすることも叶わぬふるさとの山や海 

青春の眩しい狂気 あるいは頬に触れた風

北の岬 雨宿りした山小屋 

木漏れ日 渓谷の星

夜更けの電話  言葉 そして魔法

遠い国の竹笛のようにこころ揺らすものたちへ

再び帰り来たらぬ時間の中で

一枚の羽のように漂うほんのひとときの旅

大きく深い息をひとつついて 

ゆっくり目を開ければ

もうそこが終着駅

すわったままで旅を旅するなら切符はいらない

でも改札を抜けるとき何気なく振り返るといい   

そこに古いジーンズと新しいシャツの  

若い日の自分の旅姿に出会うかもしれない

旅に出かけよう

今まで知らなかった 自分自身と出会うため

いまから

すわったままで