遠きもの
「風うた」と言う坂本冬美の歌がある
赤いセロファン溶かしたような
夕日の向こうに昭和が揺れる・・・
もう手を伸ばしたくらいでは
とても届かない遥か遠くになった世界が
歌詞そのままに頭を横切っていくようで
時たま自分でも歌ったりする
平成三十一年から令和元年
晩秋が初冬となった須磨寺公園の木の椅子に
やさしい日差しが舞い降りている
このところ諸事多忙で
モーニングコーヒーのあとの散歩も久し振り
桜も水木も榎もすっかり紅葉して
なんだか季節に取り残されたようて
ちょっぴり寂しい足元に足元に
ふと
こちらも季節に取り残されたかたちに
音もなく揺れているのは一株だけの風草
別名風知草
薄い紫が綺麗だから二、三本抜いて
少し色褪せた犬蓼と一緒に束ねて
工房の定位置に
潮流のように楠の香りが立ち込めている
いつもの工房の風景が
それでいて今日も新しい
なんだか今日は
懐かしい人がふらりと訪ねてくれそうな
「風うた」の三番の歌詞に
消えては微笑む 思い出たちよ
ありがとう ゴメンね
また会いましょう・・・
出逢いこそが生きているよろこび
工房の玄関の戸が開くたび
ささっ ささっと
風草が揺れる
風草や今日の奇跡に揺れながら 龍
