山髙龍雲 風に吹かれて
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五月の雨

緑雨(りょくう)


「新緑の頃に降る雨のこと」と


日本国語大辞典にはそう記されています


未明から小止みなく続く雨音につつまれた工房で


今日は朝から机に向かって


彫刻刀ならぬ鉛筆を手に


お釈迦さまの制作下絵を描いています


明りとりの障子を開けて


廊下の向こうのささやかな庭に目をやると


野村もみじの薄紅色の葉と


その葉陰になったところの萌葱色の葉が


どちらも万遍なくビーズのような水玉を飾って


その混成模様がまた


とても緑雨に似合っています


こんな風に世の中が


と言うより


人と人が溶け合うことが出来ればいいのに


などと とりとめなく思いながら


ほぼ輪郭の浮かび上がった鉛筆描きのお釈迦さまに


更に手を加えています


その鉛筆の線上にある一年半くらい後には


この工房でまた一体の新しいほとけさまが


お生まれになられます


その日 制作者の一人として


その場に立ち会えることの幸せを


もう今から感じています


6Bの鉛筆の頭がどれもすっかり丸くなってきました


一休みして


緑雨の音を聞きながら


7、8本の鉛筆を研ごうかと思います


南方海上に仲良く手を繋いだままの停滞前線は


まだ動く気配を見せないそうです





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