サラリーマンの野中陽介(阿部雅彦)は終電車の中で土屋名美(岸加奈子)を見る。そして、名美の手首に縄で絞められた後を見つけるのであった。
 その時、陽介の中で何か異常な性欲が起きるのであった。

 家に帰った陽介は妻の久子(中川みず穂)に縄で縛ることを強要するのであった。久子は脅えつつも陽介の要求を受け入れるのであった。
 そして、陽介の久子へのSM趣味の要求はまだまだ続き、久子はそれに脅える生活をするのであった。

 ところが、陽介は久子では満足をしなかった。そこで、彼は名美と再び会うために、彼女の降りた駅で待ち伏せをするのであった。
 一度は発見するのだが、陽介は名美に拒絶をされるのであった。

 しかし、翌日、名美から陽介に接近をするのであった。そして、名美と会った陽介は彼女とSMプレイを行っていくのであった。



 『天使のはらわた』でお馴染みの石井隆が脚本を書いている。ただし、村木・名美コンビではなく、野中・名美コンビである。
 でも、内容は男女が深く愛していくことで堕ちていくという石井ワールドである。
 そして、男と女が落ちていく手段がSMであった。

 落ちていく手段がSMというのが実にうまい。なぜなら、ある意味、SMプレイというのは異常性愛的なものがあるからである。その異常性愛なものにはまることで男と女が落ちていくというのは、実に作品の味の深さを強くしていった。
 石井隆も上手く取り入れたものである。

 そして、その石井ワールドを、見事、映像化したのがすずきじゅんいち監督である。
 すずき監督がこの作品を成功させているのは、SMという行為を嫌悪感ではなく、嫌悪感を通り越した、いい感じのある空気感を漂わせる作品にしたことである。
 そのために、異常性愛のSMに落ちていく男と女がそれを受け入れていく心理の過程を、SMシーンを使って、よりそれがわかるドラマなのである。

 この作品、健常者からSMに落ちていく阿部雅彦のその過程が、しっかりと描かれている。
 阿部は本作の前に出演した『ピンクのカーテン』でも、妹に性欲を感じさせられるのを抑えている兄を演じていた。その時は、抑えていた。それが本作は正反対に出しまくる役を演じている。
 また、一度は夫のSM趣味を拒絶し家を出て行きつつも、結局、夫の下に戻り愛を失いたくないためにSMの深みにはまっていく妻を中川みず穂が上手く演じてくれた。

 演技と演出が面白いSM映画である。