実際に起きた小学生誘拐事件を題材にしたドキュメンタリータッチの映画。
豊中市の私立学園の小児科医の三田村昇(岡本富士太)の長男英之(和田求由)が下校途中に誘拐された。それを知った大阪読売社はすぐに報道体制をはる。
しかし、人質の命の救済のため、警察は各新聞社に報道協定を要請し、犯人が捕まるまで事件の報道を禁止するのであった。
それでも、大阪読売社はじめ、各新聞社は協定解除のために取材網を強化するのであった。
最初の身代金要請の時、英之の母が緋沙子(秋吉久美子)が指示された場所に行く。しかし、犯人は警察の存在を察知し、英之の学帽とランドセルを置いて去るのであった。
英之を袋に入れ車に乗せた犯人、古屋数男(萩原健一)は日本海のある港町に来ていた。そこから再び三田村夫妻に金の要求をするのであった。
古屋はそのまま安息を求めるように母(賀原夏子)の所に行くのであった。そこに妻の芳江(小柳ルミ子)から電話が来る。
古屋は喫茶店を経営していたが失敗し、その権利を高利貸しの森安泰明(中尾彬)に取られていたのであった。芳江はそれを知らなかったので古谷をしかるのであった。
芳江を落ち着かせるのと金を取るために古屋は豊中市に戻るのであった。その途中、英之を殺そうとするが英之の子供っぽさに殺意が失せていくのであった。
家に戻った古屋は娘の香織(高橋かおり)から同級生が誘拐されたのを聞き、香織と英之が友人なのを知る。しかし、借金のことで芳江と喧嘩をしてしまい古屋はまた家を飛び出すのであった。
古屋が持ち金が少なくなっていた。そこで宝塚市内の喫茶店を指定してきたが、警察だけでなく、新聞社の車も張り込んでいたので古屋はまた危険を察知し逃げていくのであった。
金がなくなり追い詰められて精神的に苦しみ古屋。その上、英之が熱を出してしまい、更に精神が錯乱するのであった。
古屋は近所のカーショップに金を持ってくるのを指示、その上、警察がいれば英之を殺すという。一人で生かせてくれと哀願する緋沙子に負けた遠藤警部(伊東四郎)は一人で行かせる。しかし、上からの命令で結局部下を連れて行くのであった。
しかし、結局、カーショップでも古屋に気付かれて逃げられるのであった。
翌朝、車の中で死んだように疲れきった古屋が発見された。
数日後、マスコミや世間の冷たい目から逃れるため芳江を香織は夜逃げをする。しかし、そこを大阪読売の記者にカメラで撮られる。
その時、香織は言った。
「うち、お父ちゃん、好きや」
題名に「報道」という文字が付くが、正直、この映画は記者そのものやその視点から描かれた映画ではない。
確かに、報道協定が結ばれてはいるが、スクープを得るために現場近くの販売所に編集部をそのまま持ってきたり、そのために捜査室を盗聴としようとする姿が描かれたりした。
また、記事を得るために子供の手術に立ち会えなかったり、恋人との仲が壊れようとしたりするエピソードもあり、記者としてのドラマを盛り上げる要素はあった。しかし、結局、それもこの映画のドラマを盛り上げるものにはならなかった。
この映画はむしろ記者よりも事件を起こした犯人を追いかけるドラマになってしまった。しかも、その犯人をショーケンが演じているのである。
それでは記者のドラマが薄くなってしまうのも当然なのである。
自ら精神的に追い込まれていく犯人。なんせ、警察に言えば子供を殺すと脅せば大丈夫だと考える計画性の弱さで犯行を実行するくらいである。
しかも、普段の生活が自分の夢を追うことだけの生活で借金を作り、無理に子供を学費の高い小学校に通わせたりする、現実性のない男なのである。
事件の恐さから母親の所に行ったりする甘えた部分を持った所。
そして、何よりも精神的に追い込まれた時の彼の姿であった。要求の電話の声も段々荒々しくなる。その上、誘拐した子供が熱を出し、その対処の仕方がわからないために狂ったように叫ぶ姿。
更に、この頃は携帯はもちろんテレホンカードで電話すらもできない時代である。持ち金がなくなったらそれで騒ぐ。金が無くなれば身代金の要求の連絡もできなくなるのである。
その上、自分が事件を起こしたのに、三田村夫婦に「お前らが悪いんだぞ」と逆ギレする姿がとても強烈であった。
神代辰巳監督でのショーケンの静の演技の良さを言ったが、本作は逆でショーケンの騒ぎ苦しむ姿がとても強烈に感じた。
つまり、ショーケン演じるこの犯人は、ショーケン十八番のガキのまま大きくなっている男なのである。
更には、そんな男が現実に生きていけない姿を曝け出したものなのである。
だから、あまりにも追い詰められていく犯人の姿は強烈になっていき、その姿を見ていると同情をしてきてしまうのである。
それによってこの映画の悲劇も強烈なものになったのであった。
そんな夫を持ったために苦しむ小柳ルミ子の妻を忘れることができない。あまりにも夫の駄目さぶりに怒ることしかできない心情を見事に演じきった。
彼女がぶっつけることができない怒りをあらわにする時、いかにこの妻が大人になれない夫に苦しい生活をしていたのかが強烈に感じてくるのである。そして、その愛も。
この映画で小柳ルミ子は、その年の多くの映画賞を受賞しているのもうなずけるぐらいの演技であった。
それと誘拐された子供の母親を演じる秋吉久美子も忘れられない。誘拐された子供を心配するあまりに狂ってしまう演技はデビュー当時の不思議ちゃんキャラとは違った演技を見せてくれた。
そして、最後の取引で警察に現場に来ないでくれと叫ぶ姿も強烈であった。いかに子供を溺愛する母親がとるべき行動を見せてくれた。
犯人や普通の女性達が強烈な演技をしているのに対し、マスコミ側や警察側がとても演技力としては弱々しくなっている。
マスコミ側は、三波伸介、丹波哲朗、大和田伸也、宅間麻など、豪勢なキャスト、個性派などを揃えているから、まだいいが、警察側が平幹二郎、伊東四郎だけであとは東映の大部屋メンバーというのも残念なところがある。
しかも、捜査部長役の平は典型的な犯人逮捕重視の捜査部長だから面白みがなかった。
それだけに、誘拐された母親の気持ちを察し命令を無視し一人で行かせるが、結局、上の命令には逆らえない警部の心情を見事に演じた伊東四郎の名演技は忘れられない。しかもそれは数分のものであり、その短い時間の中でインパクトを残しているのであるから。
この映画はショーケンの名演技が堪能できるというだけでも素晴らしい映画である。なぜ、長い間、上映がされていなかったのだろうかと思った。
ただ、実際にあった事件の映画化だけに、DVD化は難しいだろう。そんな大人の事情があることでもったいなさを感じる映画である。
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