名画座マイト館


 岡本喜八監督が、異色な方法で作り上げたミュージカル映画。



 大名組六代目親分の大作(伊藤雄之助)は三年間の刑務所生活を終えて出所してきた。しかし、子分は誰も迎えに来てなく、息子の健作(高橋正)だけであった。
 仕方なしに自分の縄張りに戻るのだが、ついでに爆弾作りの名人のチンピラで大作に子分志願をしている田ノ上太郎(砂塚秀夫)が付いてくるのであった。

 縄張りに戻った大作であるが、縄張りは愛人の弟であった矢東弥三郎(中谷一郎)に取られていた。更には二号のミナコ(重山規子)は子分のテツ(天本英世)に取られてしまっていた。
 そして、妻の梅子の所に戻れば梅子は組を乗っ取られたショックで新興宗教にはまっているという状態であった。
 代々、組長の血筋であった大名組は落ちぶれてしまっていた。

 怒った大作は矢東の所に殴り込みをかけるのであった。ところが矢東の所に行くと、かって子分達は矢東の選挙運動を行っていた。その上、昔の親分への義理もなく、事務所から追い出すのであった。

 追い出された後、大作は幼馴染みの椎野と再会する。椎野は矢東の運転手をしているだけでなく、その人柄から矢東の預金通帳と印鑑を預かっていた。
 その時、大作が矢東の金をくすねられるなと言った時、椎野の心は揺らぐのであった。

 矢東は「ペンこそ文化の命なり」とキャッチフレーズに街では評判を取っていた。それに大作は腹を立てていた。その時、太郎が現れ、インクを変える時に爆発する万年筆型爆弾を作るのであった。そして、矢東がいつも持っているペンをペン型爆弾に変えて、矢東暗殺を企てるのであった。

 しかし、矢東は常に自分の歩く道まで子分を壁にして歩くのでなかなかすり替えることができなかった。が、矢東が床屋で髭剃りをしている時に清掃員に化け、上手く矢東の背広にあるペンを爆弾に変えるのであった。

 ところが、その背広は椎野のものであった。そして、椎野は矢東に銀行から大金をおろすことを頼まれる。この時、椎野の心は矢東の金を持ち逃げするのを決めるのであった。
 しかし、椎野が矢東の金を出している時、銀行強盗が来ていた。すぐに、銀行強盗は捕まり、椎野も金を持ち逃げすることなくすんだ。でも、万年筆爆弾は銀行の床に転がったままであった。

 翌日、銀行の警備員が万年筆を見つけ、それを掃除のおばさんに上げるのであった。おばさんはそれを息子に渡し、その息子は万年筆を健作に取られてしまうのであった。
 いい万年筆を持て喜ぶ健作を見て太郎はぎょっとする。健作は大作、梅子の前でその万年筆のインクを取替えようとするが、間一髪、太郎が来て、窓にすて助かるのであった。
 でも、矢東暗殺に失敗したので大作は寝込んでしまう。

 選挙の日。当選確実なのを喜んでいた矢東は落選してしまう。それを電気屋のテレビで見て喜んでいた太郎を子分達が連れてくるのであった。太郎が大作の子分と知った矢東は殺そうとそうとするが、太郎が当選者の誰かが死ねば、繰り上げ当選ができると教え、ゴルフ型爆弾を作る。

 その金で太郎は大作を病院に入院させるのであった。ところが健作がゴルフ場のキャディのアルバイトをしているのを知って、太郎はゴルフ場に急ぐのであった。



 岡本喜八監督が監督昇進テストで提出した脚本の一つでコーネル・ウールリッチの『万年筆』を原作をシナリオ化し、合格をもらえた作品であった。ただ、第一回監督作のため、金のかかる提出した二本のシナリオではデビューさせてもらえなかったが。

 岡本喜八監督は監督になった時に撮りたいと思ったジャンルにミュージカル映画があった。それを本作で実行するのであった。
 岡本監督は古いやくざである大作の時は能や歌舞伎調の音楽、唱歌などの和風な音楽を使い、矢東の現代やくざの時はタンゴやロックンロールなどの洋風音楽を使った。

 しかし、正直、この異色なミュージカル的手法は半分成功、半分失敗という結果になってしまっている。

 失敗しているのは能の音楽を使った和風音楽の所である。重さを感じ堅苦しさを感じる和風音楽のミュージカルシーンは見ていて、ダルさと難関な映画の印象を与えた。
 岡本喜八監督の映画といえば、見ていて気持ちいいテンポ、爽快さを感じる演出、そして、演出と見事にあった音楽の使用が岡本監督の素晴らしさなのである。

 しかし、能を取り入れたミュージカルシーンは歌声が聞きづらく重さを感じる曲、そして、画面までもが暗くなってしまい、このシーンだけを見ていると難関な前衛映画に見えてくるのである。

 この映画は公開された時、同時上映は前衛映画を撮る勅使河原宏監督の映画であった。それを知った時、なぜ娯楽映画の岡本監督の映画が前衛映画と抱き合わせだったのだろうかと不思議に思ったが、この能を使ったミュージカルシーンを見て、なんとなく納得してしまった。

 しかし、洋楽を使った所は、やはり洋画、洋曲大好きの岡本喜八監督である。和風音楽での退屈さを見事に吹き飛ばしてくれた。
 もう洋楽のミュージカルシーンは明るく、楽しいものとなり、更には笑いにも繋がっているのがいい。

 選挙当選を確実だと思っていた矢東が落選とわかると、非暴力的人間であったのが本性を表わしていくシーンはまさにミュージカルで表現することでいいシーンになっていた。

 また、話の本筋とは関係ない、銀行員達が残業になったのを愚痴るシーンは、まさに正統派のミュージカルシーンとなっている。
 それだけに、本筋と関係がないシーンなのに最も印象が強く残り、この映画といえば、このシーンが真っ先に出てきてしまうぐらいである。

 確かに日本的精神の人物を和風音楽で表現しようとした岡本監督の狙いはわかるが見事に失敗している。正直、大作の所も洋風音楽を使った方が良かったかもしれない。
 それか、唱歌を使った方が岡本監督らしい作品になったのではないかと思う。その証拠に、大作が刑務所を出て健作と帰る電車の中で、唱歌の『海』の替え歌を歌うのだが、この歌はとても明るく、岡本監督らしいギャグと演出のテンポも出ていた。
 和風音楽も、この唱歌のように明るい物を使えば良かったような気もしたが。

 この映画、ミュージカルシーンのみのことを書いているが、原作は外国のサスペンス小説である。
 でも、岡本喜八監督はサスペンスなタッチではなく、コメディタッチに描いているのがこの監督らしい所があった。
 万年筆型爆弾が、いろんな人の手に渡っていく、それでいつ爆発してしまうのかというサスペンス的展開なのに、なぜかいろんな人の手に渡った時、笑いになるのが不思議である。
 椎野であれば万年筆のこともあるが主人の金を持ち逃げするしなければならないのもあるので、そちらの方の緊張感が奇妙な動きとなり笑いになっている。これは椎野を演じている名バイブレイヤー沢村いき雄が軽演劇出身だからできる演技でもある。

 で、結局、万年筆は大作の所に来てしまうオチ。このコメディタッチで進んでいく展開は本作がミュージカル的要素に匹敵するぐらい、この作品を魅力的なものに仕上げてくれている。

 和風音楽が上手くいってなかったのは残念だが、その他の部分はその不満を吹き飛ばしてくれて岡本喜八監督らしい楽しい作品となっているのがいい。
 なんだかんだといっても、超変化球監督の良さを堪能できる一本である。


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