高野喜久雄は1927年生まれ 宇都宮農専卒業。神奈川県立高校で数学の教諭だった。

そして「荒地」同人の詩人だった。同人だったのは20代の若いころだったようだが、

後に詩集がイタリア語などに翻訳されて高い評価を得るようになったらしい。

 

雨が地上に落ち、水たまりとなる。

空の青さとその高さを写しこんだゆえに苦しむにごった水たまり。

 

 

 

水たまり

 

わだちの くぼみ

そこの ここの

くぼみにたまる

水たまり

流れすべも めあてもなくて

ただ

だまって 

たまるほかはない

どこでもある 水たまり

やがて

消え失せていく

水たまり

わたしたちに肖ている

水たまり

 

わたしたちの深さ

それは泥の深さ

わたしたちの言葉

それは泥の言葉

泥のちぎり

泥のうなずき

泥のまどい

 

だが

わたしたちにも

いのちはないか

空に向かう

いのちはないか

あの水たまりの にごった水が

空を うっそうとする

ささやかな

けれどもいちずないのちはないのか

 

うつした空の青さのように

澄もう と苦しむ

小さなこころ

 

うつした空の

高さのままに

在ろう と苦しむ

小さなこころ