完全フィクションです。
あの日から、目の前の景色から色が消えた。もはやモノクロでもない。物と物の境界線が薄っすらと見える世界。本当にそんな世界で私は全てを失った。
近所のスーパーに行ってカップ麺を次々と買い物カゴに投げ込む。
こんな生活を4年以上続けている私。働くことにも、食べることにも、生きることさえにも執着しなくなっていた。前を向いて歩くことさえ面倒になっている。
全てはあの人のせい。
汚い靴。何年も前から履き続けている靴も、何年も前に替え時がきている。
「あれ?理佐じゃん。」
懐かしい声。求めていた声。
顔をあげれば、私から全てを奪った元恋人の由依がカートを押してやってきた。
「あ由依、久しぶり。」
右腕に持っていた買い物カゴを靴を隠すように前に持ってきた。
「理佐、元気してる?」
「うん、元気だよ。彼氏もできたし。」
咄嗟に嘘が溢れ出た。元恋人へ向けたプライドとやらだろう。私なりの最高の作り笑顔で嘘をついた。
「まー理佐ならすぐできると思ってたよ。」
そんな私に微笑み返す彼女。
「由依は?」
私の問いに答えようとしたその時、
「ママーお菓子買ってー!」
3歳くらいの男の子が由依に元気よく話しかけた。
「昨日買ったでしょ。」
「パパがパパのぶん買ってって!」
男の子が指差す方には笑顔でポテトチップスを掲げる男性が立っていた。
「もう、わかった。選んでおいで。」
呆れながらも優しく微笑む彼女の表情を私は初めて見たきがする。
「ごめんね騒がしくて。」
「んーん、幸せそうだね。」
私が偽りで繕った幸せよりも、ずっと先の幸せを得た彼女に少しだけ皮肉を言った。
「ふふ、そうだね。」
皮肉を皮肉とも思わずに受け取る彼女に、余計イライラした。
「あっごめん、もう帰らなきゃ。」
帰る理由なんてないのに、その場を離れなければ自分も彼女も傷つけてしまう気がきた。
「そっか、じゃあまたね。」
少し寂しそうな顔をする彼女に、ほんの少しだけ、1ミリだけ嬉しく思った。私との時間を惜しんでくれていることに優越感を感じたのだろう。でも、
「うん、また。」
また、なんてない。私は今決めた。どんなに繕ったってどんなに惰性で生きていたって意味なんてない。
それならこの世界からいなくなってしまおうって。
きっと買っても意味のないカップ麺たちをレジに通し、乱雑に袋に詰める。
店を出る前にもう一度だけと、私は振り向いた。
男の子に優しく微笑む彼女は、
私と同じ汚れた靴を履いていた。
「やっぱ、まだ早いか。」