病院勤めをしていたころ、毎朝の救急からの患者受け入れ要請が憂鬱でした。


近年、一般の急性期病院は高齢入院患者の占める割合が増え、一見老人病院の様を呈しています。救急外来にも、超高齢者がたくさん搬送されてきます。

夜間、一般病院に救急搬送されると当直医(救急医ではないことほとんどです)が診察し、必要な処置をします。まずは、命を救うことを第一に考えます。一刻も早い対応が必要な時はご家族を待たずに処置を開始します。


そして、救急で一晩担当して、朝には各科に振り分けられます。

救命という言葉はかっこいいし心地よい・・・でも、現実はそう甘くないのです。

「かっこいい」の先は各科の担当医に任されるのです。
無事、良好な経過をたどればHappyです。

が、超高齢社会の中でしばしば延命に近い苦しい戦いを各科の担当医が担うことになります。

まあ、救急搬送することの「意味」が十分に周知されていないことがボタンのかけ違いの始まりなので、そこのところはかかりつけ医や外来主治医のご家族への説明不足ではありますが…。
救急は助けさえすればいいとでも思っているのか? あまりにQOD(死ぬ過程の質)に鈍感すぎやしませんか? 
心の中で嘆きつつ、ソフトランディングを探ります。

救急搬送時のパニック状態から普通の状態に戻られたご家族は、
「助かる可能性があるならなんでもしてください。でも、延命はしないでください。苦しませたくありません」
と異口同音におっしゃいます。・・・・それは、無理だ! と私は思います。
可能性は心臓が止まるまであるわけで、治療と延命は同じ線上にあるのです。
「助かる可能性は少しはあります。ので、治るまでの時間稼ぎとして延命する努力をし、苦しくても頑張ってもらいましょう」
「助かる可能性は少ししかありません。ので、苦しませる時間を少なくするために、積極的な治療は中止して、苦しさを最小限にする治療に切り替えましょう」
どちらかの選択になります。
その選択は、ご本人もしくはその代理人としてのご家族の意思に従うことになります。
(内縁の方や同性のパートナーの方は厳密には微妙な立場になります。)


ご家族が積極的な治療を希望されない場合、救急で施された医療からの方向転転換が難航する場合があります。

やり始めた治療を中止することは、いろいろな意味でハードルが高いのです。医療者もご家族も・・・。

もちろん、「助かる可能性が十分ある」ときはご家族が強く反対しても治療します。


ちなみに、親が輸血を拒否している宗教の信者で、未成年の子供への輸血を拒否すれば、即刻、裁判所から親権停止してもらい、治療優先で輸血します。が、信者さんご本人の場合は、命にかかわる状態になっても輸血しない権利が判例で認められています。
患者さんご自身の治療拒否は、微妙な部分はありますが、認められているのです。

話がそれました。

ご家族が積極的な治療から看取りの緩和医療に切り替えることを希望されたとしても、終末期を経験された方はいらっしゃらないのでご自分の経験で判断しようとされます。

例えば、食べられないときに、点滴したら、自分は楽になったから患者さんも同じに違いない・・・。
ところが、生命の終わりが近づき、身体の働きが弱っているときに、点滴をするとかえってつらくなるのです。

緩和医療のテキストにも書かれていますし、実際、緩和医療に携わる者として実感があります。

でも、ご家族は感覚的に「腑に落ちない」のでなかなか納得していただけません。

 

ご家族ばかりでなく、医師の方にもどんなときでも点滴することが善と考える方がまだまだいらっしゃいます。

医師によって治療方針が異なるわけで、尚一層、ご家族を混乱させることになります。
治す治療一辺倒の医師は、切り替えが難しいようです。
そして、私は、治す治療一辺倒の医師の代表として救急医を思い描いていました。

そんな時、救急医療の顔中の顔である林先生の記事(AERA 2018/3/10)が目に留まりました。

この記事の中に、私が求める答えの断片がありました。
是非、林先生のお考えをお伺いしたいと思い、講演をお願いしました。
直接お会いしたとき、林先生はおっしゃいました。


「終末期の患者さんにだって救急にできることはあります!」

これからの医療を担う若い医療者に、そして、これからの医療を受けることになる患者さんに
林先生のお話を聴いていただきたいと強く思っています。

令和元年9月29日(日) 新大阪 丸ビル別館にて林先生の講演会を開催します。
林先生の講演は救急学会でも立ち見が出るほどの人気だとか。
林先生の熱いお話を近い距離で聴くことができるめったにないチャンスです。
医療関係者もそうでない方も、ぜひ、ご来場ください。

 

https://www.kazetoniji-clinic.jp/2018/05/02/20190929kanwa/