昭和の女優さんの訃報がまた届いた。

中村メイコさん、享年89歳。

私が子供の頃にはもうベテラン喜劇女優の貫禄で人々を笑わせていた覚えがある。
女優として覚えているとすれば、大河ドラマ「篤姫」にて皇女和宮のために尽力した典侍(ないしのすけ)の、女々しいいけずな役どころを絶妙な強弱を以て演じていた姿である。

ふと思ったのは、昭和の女優さんはどなたも皆姫君然としていたこと。良く言えば高嶺の花であろう。その中でも中村メイコさんはハイ・ソサエティから庶民的なエピソードまで盛りだくさんだった。

子役の頃、黒澤明氏におんぶをしてもらったという。
出演する作品の監督に説得されてヌードを疲労したのは一度きり。6歳の時のこと。
学校に通う時間がなく個人教授を受けて育つが、国語の先生は森繁久彌氏であり漢文は徳川夢声氏に習ったという素晴らしき日々。
初デートのお相手は芥川賞作家の吉行淳之介氏であった。
また、美空ひばりさんを三島由紀夫氏に紹介したのは中村さんという。

映画の主題歌を歌うためのボイストレーニングでは、後のご主人となる神津善行さんがピアノに向かいつつ中村さん訊いた。
「したはどれだけ出ますか?」との問いに思いっきりべー、と舌を出した中村さん。何のことはない「した」とは「舌」ではなく音階の「下」のことであった。
その後ふたりは恋に落ち、幸せな家庭と家族を設けることとなる。

女優歴86年。2歳から芸能界に入り最期までナレーションのお仕事をこなしていらしたそうだ。

もうこんなに豪快で華やかで楽しいエピソードを併せ持つ女優さんは少ないだろう。寂しいというよりも時代の有り方の変化を、こういう訃報に触れた時に不意討ちのように思い知らされる。

「篤姫 テーマ曲」



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