アニサキス撃退!ワサビ・しょうゆ効果を高校生が検証 | かずのつぶやき

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アニサキス撃退!ワサビ・しょうゆ効果を高校生が検証

 みなさん、アニサキスってご存知ですか?


 そう、サバなどの魚介類に寄生して、感染した魚を生で食べると、そのアニサキスのアニさんが胃の粘膜を喰い破って、猛烈におなかが痛くなり、手術が必要なこともあるアニサキス症を引き起こすこともあるあのニクイやつです。

 こんな顔しています。

 内視鏡の手術で、胃に食い込んだアニさんをひっこ抜いているところです。


 そんな凶暴なアニさんですが、ワサビやしょうゆに一晩漬けておくと100%死んでしまうことを大阪の大阪府立北野高校3年の戸城達行君たちの研究グループが愛媛大学で開催された第83回日本寄生虫学会大会「日本周辺海域に生息するサバにおけるアニサキスの感染率とヒトへの簡易な防虫方法の検討 」
として、第一線で活躍する並みいる大学の研究者たちの中、堂々の発表を行いました。

 アニサキスのアニさんはイカやサケ、サバなどの海産生物に寄生し、ヒトへは主にこれらの感染した魚介類を食べることによって感染します。

 調理時の加熱や冷凍で殺虫は可能ですが魚の生食文化を持つ日本では、食品安全委員会報告によると年間2,000~3,000件、国立感染症研究所によると年間約7,000件の報告があります。

 これは世界中でダントツです。1960年に本症の発生がオランダで報告されてから2005年までに,欧州で累計たったの約500件,米国で同約70件とされています。

 近年は流通における鮮度保持技術の向上や、2020年の東京五輪に向けてパワーアップ中の、お寿司をはじめとする和食ブームのさらなる拡大によってアニサキス症の発生頻度が世界中で高まる恐れを懸念する声もあります。

 今回、戸城君は同級生の中井恵さん、平野有希さんと3人で同校で生物の授業を担当する神戸大学大学院保健学研究科の小松慎太郎先生(寄生虫学)の指導を受けて、調味料による簡単なアニさんの防虫方法とその効果についての検証に取り組みました。


 発表中の戸城君です。なんか余裕しゃくしゃくですね。スゴイ!

 対象のサバは大阪府内のスーパーなどで購入したマサバ45匹、ゴマサバ10匹で、アニサキスの感染陽性率はそれぞれ93.3%、70.0%!でした。

 えぇぇー、サバの70%とか90%にアニさんがいるんだ!

 まぁ、スーパーで売っているサバの生身をそのままおろしてお刺身では食べませんからね。“お刺身コーナー”で最近見かけるようになったサバのお刺身は一たん冷凍しているので大丈夫なんでしょうね。

 このうち千葉県産のサバから検出されたアニさんの幼虫をワサビ(1gずつ、1~5g)か、食塩(0.1、0.2、0.5、0.7、1.0g)を20mlの水道水に溶かした水溶液に24時間漬け込み、アニさんの活動の抑制状況を観察しました。

 すると食塩では完全には抑えることができなかった暴れん坊のアニさんですが、ワサビではどの量でも100%死んでしまうことが分りました。

 他に、ショウガや料理酒、ウイスキー、しょうゆ、炭酸水、食用油、米酢、タバスコ(笑)、ベーキングパウダーで試みました。

 すると、ショウガ、しょうゆ、料理酒、ウイスキーに漬け込んだ場合にはほぼ100%の防虫効果が確認されました。

 これらの検討は産地ごとにも行われましたが効果の違いは認められませんでした。

 座長を務めた神戸大学大学院保健学研究科の宇賀昭二教授(寄生虫学)に「これまでのディスカッションの様子を見てどきどきしていると思いますが、会場にいるのは親切な人ばかりなので、頑張ってください」と促されて登壇した戸城君は、ひるむことなく研究内容を発表しました。

 そして最後には「アニサキスに感染した魚介類をワサビなどの調味料に一晩漬ければ、有効な防虫効果を得られることが明らかとなった」とまとめました。

 また、会場から「24時間という設定はサバを早く食べたいと思う人には長過ぎるので、より短い期間での効果を検討してはどうか」などと質問されると、「今後はさらに短い期間での検討を重ねていきたい」とそつなく回答しました。

 いやはや、たいしたものですね。

 彼らの指導を担当した小松先生は、科学に強い興味を持つ子供たちにアカデミックな場で貴重な経験を積ませたいと学会にアプローチし、研究発表の運びとなりました。

 学会の事務局も、高校生による学会発表は「83回の全記録は不明だが、過去30年でも聞いたことがない」と驚いています。

 本当に楽しみですね。

 彼らのような若き研究者がばんばん出て来て欲しいものです。


 ちなみに“しめ鯖”はお酢と塩で〆るのでアニさんが生き残ってしまい、たまに当たっちゃうんですね。

 水20mlにワサビ1gってどんな感じなんでしょうか。

 今度試してみます。

 それにしても、お刺身にはおしょうゆにワサビにショウガ。いままでいわれて来た「おいしさと殺菌効果」があらためて証明された訳ですね。

 産科・婦人科・堀産婦人科


【補足】

 今回の記事をアップ後、もう少しみてみると、抗アニサキスに関する研究には先達がいらっしゃいます。東京都健康安全研究センター(前都立衛生研究所)の村田以和夫先生です。

 先生たちのグループは1987年頃より抗アニサキスの研究を始め、漢方薬を含め幅広くアニさん退治の特効薬を開発すべく研究を続けておられるようです。

 ワサビの効果もそのひとつです。

 文中、戸城君の研究で抗アニサキス効果を調べるために試したいくつかの調味料のところで、「タバスコ(笑)」と書きましたが、タバスコなどのトウガラシの“辛み系”より、ワサビを始めショウガ科などの“痺れ系”のスパイスの方が抗アニサキス(抗寄生虫)効果があるようです。

 タバスコと比較したのには意味があったのです。

 実際、インドなどのショウガ科スパイスを多用するエリアの方が、スパイスをあまり使わないエリアや、ブータンなど食べてもトウガラシだけのエリアより寄生虫の発生頻度が低いようです。

 余談ですが、私はブータンに行ったことあるんですが、本当に様々なトウガラシをおかずとして山のようなご飯と一緒に食べるんです。おいしかったですよ。

 まぁ、こういった詳しい研究はあるのですが、学会場にもきっと村田先生はいらっしゃって、戸城君の発表を目を細めて聞いていらしたのではないでしょうか。