小児〜青少年期のCT施行で全がんリスクが上昇 | かずのつぶやき

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小児~青少年期のCT施行で全がんリスクが上昇

 みなさん、慶応の近藤先生の本、お読みになったことありますか?

 近藤先生の主張のひとつに「健診や検査でのレントゲンやCTによる放射線被爆が逆にがんのリスクを高める」というのがあります。
 私は先日、先生の本を読みました。たしかに極論やトンデモっぽいお話も多いのですが、なかにはなるほどと同感する点もありました。

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 さて、今回、「幼少期や青少年期にCTスキャンを受けた子供は、そうでない者と比べて全てのがんの発症リスクが24%も高くなる」という研究結果を、オーストラリア・メルボルン大学、人口・世界保健部門のJohn D. Mathews博士たちの研究グループが BMJ(2013:346f2360) に発表しました。

 CTスキャンから得られる医療上の情報は医療の進歩に計り知れない役割りを現在でも担っていることは確実です。
 いままで分からなかった体の内側の情報を私たちはCTによって得ることにより診断、治療は大きく前進しました。しかし1980年代以降、使用頻度が高まり潜在的な発がんリスク、特に小児期におけるCT施行後のがん発症を懸念する声があがっています。

 これまでの研究のほとんどは、リスクを間接的に評価しており放射線専門医の間ではそうしたリスク推定法を疑問視する意見もありました。

 博士たちは欧州の研究者らと共同で、オーストラリアの医療保険の記録と全豪のがん記録を利用して、あらゆるがんの診断の1年以上前にCTスキャンを受けた患者のデータを調査して、0~19歳でCTスキャンを受けたグループ(CT施行群)と、同年代でCTを受けなかったグループ(非施行群)との間でがんの発症率を比較する研究を行いました。

 がんの診断の1年以上前のCT施行歴に限定したのは、がんの診断としてCTが行われた症例を除外するためです。

 対象は1,090万人!で、全例が1985~2005年に生まれた人たちです。

 そのうち、がんの診断の1年以上前にCTを受けていたのは68万211例で、18%は2回以上受けていました。調査結果の総括はCT施行から1年以上経過した後のがん発症率としました。

 平均追跡期間はCT施行群が9.5年、非施行群が17.3年で全体の追跡は2007年末に終了しました。

 今回の研究は医学放射線曝露に関する住民ベースの研究としては過去最大のものだそうです。1,000万人が対象ですものね。

 2007年までにCT施行群のうち3,150例、非施行群の5万7,524例が、がんと診断されました。

 年齢、性別、出生年で調整後のCT施行群の全がんの発症率は、非施行群と比べて24%高く、CT1回施行ごとにがん発症リスクは16%上昇しました。

 博士によると、青少年における今後10年間のがん発症率は1万人当たり39件と予測され、全員がCTを1回受けるとすると発症は約6件増えることになるそうです。

 1万人で6人をどう捉えるかですね。

 同誌の論評は「小児のがん発症率はもともと非常に低く、24%のリスク上昇というのはこうした低い発症リスクをわずかに上げるだけに過ぎないことをまず認識すべき」とコメントしています。

 ちなみに日本のデータですが、小児では脳、中枢神経系と白血病にかかるくらいで、ほかの悪性腫瘍はまずありません。

 脳腫瘍に関して、CT施行群の発症率の上昇は、施行から時を経るに従って鈍化しましたが、それでも最初のCT施行から15年経過した後もCT非施行群に比べて明らかに高い発症率でした。

 脳、骨髄、血液腫瘍以外の固形がんに関しては経時的にリスクが上昇したそうですが、これは例数自体がわずかなものでしょう。

 全てのがんの合計では、最初のCT施行後の年数により、発症率の上昇は鈍くなりましたが、15年以上経過した後も非施行群に比べるとなお高かったそうです。

 脳腫瘍に関しては5歳未満でCTを受けたグループで最も高く、最初のCT施行年齢が高くなるほどリスクは低くなりましたが、15~19歳の最年長群でも全がんリスクを総合した場合には明らかなリスクの上昇が維持されました。

 脳腫瘍以外の固形がんのリスク上昇率は男児の14%に対して、女児は23%と女児で若干たかかったそうです。多分卵巣がんでしょう。

 余談ですが、私は以前10歳の卵巣がんの女の子を受け持ったことがあります。
 卵黄嚢腫瘍といって比較的めずらしい卵巣がんですが、10~20代に多く、化学療法がよく効くので現在では命を落とすことはあまりありません。

 しかし受け持った彼女はそのなかでもたちの悪い組織で、肝臓に転移し、手術や強力な化学療法を行ったのですが、とても残念なことに亡くなりました。今でもベッドサイドで臨時家庭教師をしていた時のことが目に浮かびます‥‥。

 それはさておき、博士はCTスキャンを行った部位の60%が脳で、一部の症例ではCTが脳腫瘍発症のきっかけになったのではなく、発症1年前の症例に限ったとしても、脳腫瘍によりスキャンが実施された可能性があることを指摘しています。

 1年前はあやしいのでCTを撮ったのですが腫瘍が小さいため“異常なし”の診断で、1年後に大きくなってやっと診断出来たといった感じでしょうか。

 そのため、「がんの発症リスクを全てCTスキャンを撮ったことが原因とは言えないし、逆の因果関係の可能性も否定出来ない。特に脳腫瘍症例の一部ではその可能性が高い」と述べた上で、「それでもなお、さまざまな種類のがんの発症率が高まった原因は放射線照射にある」と強調しています。

 今回の研究では追跡終了時点でもなお、がん発症率の上昇が続いており、CTスキャンによる生涯のリスクを最終的に明らかにすることは出来ませんでした。

 博士は、実際診察にあたる医師に対してCT施行の判断を正当に行うために、CTスキャンを行うことによる隠れたリスクと、施行することによって得られる情報によるメリットを毎回比較検討する必要があると話しています。

 ところで日本が、人口当たりのCT、MRI保有数が世界的に見て断トツであることをご存知ですか。

 厚生労働省などの統計によると、人口100万人当たりのCTの日本の設置台数は96.1台と米国(34.3台)やドイツ(16.3台)などをはるかに凌ぎます。(2008年)
 
 オーストラリアのCTの数はわかりませんが、日本には及ばないでしょう。ということは恐らく日本ではオーストラリアより頻繁にCTが施行されていると思われ、そのことによる影響も大きいものと予測されます。
 
 わが国ではもちろんそんな研究はありませんし、われわれ医療従事者も近藤先生たちの他は、あんまり意識はしていませんね。

アメリカで、頭部の外傷で救急外来を受診した子供の保護者742人に対する調査で約47%の保護者がCTスキャンの実施が子供の生涯にわたるがんリスクの上昇と関連することを理解していたそうです。

 ただ、あまりリスクばかり強調すると、日本では撮らなきゃいけないのに撮らせてくれないケースが増えそうです。ここが難しいところですね。

【関連記事】

 今回の研究に関連した研究として、カリフォルニア大学Diana L. Miglioretti教授の研究で「1996年から2005年の間に14歳未満の小児に対するCT検査が増加しており、推定されるがんリスクを検討したところ、腹部、骨盤や脊椎の検査を受けた児では他の部位の検査を受けた児より高かった」 JAMA Pediatrics(2013;167:700~707)という調査があります。

 その中でCT検査は1996年から2005年の間に、5歳未満で2倍、5~14歳で3倍に増加したそうです。その後2006、07年は変わらず、その後減少しているそうです。

 きっと、医療従事者や保護者も前の記事のようにリスクに対して敏感になり、CTスキャンの頻度が下がってきているようです。