出生前診断で中絶倍増 | かずのつぶやき

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出生前診断で中絶倍増

 胎児の染色体異常などを調べる出生前診断で、2009年までの10年間、胎児の異常を診断された後、人工妊娠中絶したと推定されるケースが前の10年に比べて倍増していることが日本産婦人科医会の調査でわかりました。読売新聞:7月22日夕刊
$かずのつぶやき-染色体

 妊婦健診の際に行われる超音波検査で近年中絶が可能(妊娠21週まで)な妊娠初期でも異常がわかるためと考えられます。

 調査によると、染色体異常のひとつであるダウン症や胎児のからだに水がたまる胎児水腫などを理由に中絶したと推定される件数は、2000~09年の10年に1万1706件、で1990~99年の5,381件に比べて2.2倍に増えました。

 調査は横浜市大国際先天異常モニタリングセンターでまとめました。

$かずのつぶやき-中絶表

 全国約330の分娩施設が対象で、毎年100万件を超える出生数の1割をカバーしており、回答率は例年25~40%程度ですが、今回の数値は100%だとして補正しました。回答率低いっすね。

 人工妊娠中絶の実施は母体保護法という法律のもとで行われています。中絶をすることができる条件に「胎児の異常」は認められていません。そのため「母体の健康を害するおそれがある」という理由で行われているのが実情です。

 たとえば脳のほとんどを欠いた胎児奇形、無脳症児は出生後生きることは不可能です。そのためエコーでこの異常がわかった場合は初期のうちに中絶を行います。この場合、両親が産むことを希望すれば中絶をしないという選択もありますが‥‥。エコー検査も出生前診断であり、検査を行う目的のひとつにこのように生まれても生きて行けない致死的な奇形を初期のうちに見つけることがあります。母体保護法による中絶は妊娠21週までしか認められていないので、このような致死的な異常があっても妊娠22週以降は“殺人”になってしまい行うことができません。

 センター長の平原史樹教授は「ダウン症などの染色体異常の増加は妊婦の高年齢化も一因だ」と話していますが、中絶数の増加の原因にはエコー検査だけではなく、血液検査で異常のリスクがわかる母体血清マーカー検査の普及と、妊婦さん自身が出生前診断に対する知識を持つようになり、検査をする機会が増えたため、その結果胎児の異常が発見されることが多くなったことが挙げられます。

 さてイギリスは母体血清マーカー検査の生まれた国であり,そのため同検査がかなり普及しています。また母体血清マーカー検査だけでなく,他の出生前診断についても普及が進んでいます。

 イギリスは地域的な特徴として,神経管形成異常(神経管不全,二分脊椎,無脳症など)の出生頻度が高い国で、そのため,出生前診断の技術が発達しました.葉酸の摂取を推進したのもイギリスです。

 イギリスでの出生前診断(スクリーニング検査)の目的は「障害児の出産を減らすこと」です。

 イギリスを始めヨーロッパ諸国は日本と異なり、障害児に手厚い補助を政府が行っているため、障害児の出産を減らすことは社会的な費用を削減することになります。つまり「障害児が生まれるとお金がかかるので、生まれないようにしよう」というわけです。そのため,公的費用で出生前診断にかかる費用をまかなっているという側面があります。

 その結果,イギリスにおける胎児の異常を理由とした中絶数は増加の傾向にあります。現実的ですね。

 読売の記事の後半は、エコーによる出生前診断により異常が発見されるケースについての解説です。「超音波検査の画像精度が向上して、異常が妊娠初期の段階でも把握できるようになったことがある」とありますが、ここ20年通常の超音波機械の性能は良くなりましたが、その性能によって多くの異常が見つかるようになったのではなく、記事にあるNT(胎児の首の後ろのむくみ)などの情報が私たち産婦人科医、そして妊婦さんにいきわたるようになったことが大きいと思います。10年前はNTなんてよく知られていませんでした。

 上の表でエコーでわかるものは「無脳症、水頭症、胎児水腫、NT」です。ダウン症はエコーでの診断は難しく、羊水検査による診断だと思われます。

 無脳症、水頭症はあまり増えていませんが、胎児水腫、NTは倍以上に増えています。胎児水腫とNTはエコー上似た所見を示すことがあり、最終的には羊水検査で診断したものと思われますが、これは最近のNTについての知見が増えたこと、そしてダウン症は血清マーカー検査の普及により羊水検査の症例数が増えたことによると思います。

 エコーによる出生前診断については日本産科婦人科学会が指針を示しました。

 ただ、エコーの検査は医師の側も情報をすべて患者(妊婦さん)に伝えればよいというものではありません。たとえば「へその緒が赤ちゃんの首に巻いているねぇ」なんて言う先生がたまにいますが、へその緒をほどけるわけありませんし、分娩中ではなく、おなかの中にいる状態でへその緒が巻いていても必ずしも悪い状態になるわけではありません。

 そんなこと言われたら心配になりますよね。こういう場合はいちいち話さないほうが良いと思います。みなさんは知りたいですか?