また短編小説を書いてみました。お忙しいと思いますが、3分ほどお時間を頂ければ幸いです。
 
 
「記憶の中の住居」
 
子どもの頃にアパートではないな、マンションでもない。その中間くらいの、そう、団地に住んでいた。団地と言っても公務員の官舎であったその場所は、当時すでにぼろくはあったが、子供心に自然も多く、夏には盆踊りに屋台も出て、住み心地の良い場所であったように記憶している。
 
30になった時に、今の家からもそう遠くないその団地を、ふと訪れたくなり数十年ぶりに近くの駅に降り立った。駅には高島屋があり、その割には田舎じみたその場所は、あまり変わっていないような気がした。
 
駅から15分ほど歩き、最後に階段を下ると、その団地があった。
 
そして僕の到着を待っていたように同じくらいの年頃の男性が現れた。そう、竹原信之くんだ。ちっとも変っていない、なんだか子どもの頃のような感じがする。
 
「よう、ちっとも変っていないな」
「そちらこそ」そういって僕らは笑った。
 
「近藤君を覚えているか?高橋ちゃんもたまに来るんだぞ」
「まるで僕を待っていたかのようだな」
「そうだな、待っていたよ」そう言った竹原君は懐かしむように僕を見た
「もう会えなくなるんだ、会えてうれしいよ」
 
今何をしているの?とは聞けなかった。何だか現実感が無かった。
「それじゃあ僕はもう行くよ」
そう言って別れた後の記憶はあまりない。
 
それから数日して、なんだか急き立てられるようにその団地に僕はまた向かった。階段の先にはテープが貼ってあった。
(工事中、危険立ち入り禁止)
 
その団地は取り壊され新しい建物になってまた官舎として利用されるのだと、その時僕は分かったのだった。そしてもう二度と子どもの頃の団地をみれないことも。
 
晴れていたのか雨が降っていたのか、その時の天気も上手く思い出せない。ただ僕は確かに子ども時代の親友と会ったのだ。それは団地の見せたひと時の幻だったのだろうか。
(終わり)
 
どうでしたでしょうか?僕の書く小説は前作もそうですが、ほとんど実話をもとにしています。今回のお話も、実際に体験したのは間違いが無いのですが、なんだか夢の中の様にハッキリとしません。もしかしたら幽霊だったのかなぁ(笑)
お読みいただきありがとうございましたm(__)m