期待していた「Go to トラベル」の実施は、コロナ禍

のオミクロン波を警戒しながら足踏みしているようです。

買い物は go shopping(動名詞)と言いますが、旅行する

は go travelingとは言いません。Go to (不定詞) travel

と中学で習いました。習慣的な動作(動名詞)に対して、

しっかりとした目的を伴った行動(不定詞)を表します。

コロナ禍がまさに爆発感染した時に、愚かにも日本政

府は「観光立国?」という看板を外国にアピールしてし

まい、それが国内感染爆発に至ったのは私たちの記憶

に新しい。旅行の目的と手段を、逆転させた結果です。

「Go to トラベル」も、ホテルなどの観光産業(手段)

を念頭に置き、旅人志向(目的)ではないように思え

ます。「go to クリスマス」商戦のきらびやかな宣伝

にも同じように、目的と手段の逆転現象を感じます。


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例えば、旅行者のスタイルは、かつての団体旅行から、

個人のライフスタイルに合うような旅人自身が楽しむ

流れに変わってきているのではないでしょうか。

クラブ・ツーリズムやワールドベンチャーなどが盛んに

豊かな選択支を提供する一方で、リック・ステーブ氏は

旅先の “個性” と、旅行者 “個人” の趣向を結びつける

旅行人生スタイルを、ひたすら追い求めていきます。




もともと、父親がヨーロッパでピアノの買い付け輸入の

仕事で旅をしていたのを、子供の頃から一緒についてま

わったのが、ステーブ少年の旅の始まりでした。父親

がヨーロッパ各地でブランド・ピアノの音色を確かめ

ながら、このピアノの音質はアメリカのどのピアニス

トの弾き方に合っているか父親が耳を研ぎ澄ませ確か

めるかたわらで、少年リックはヨーロッパの文化と

歴史が地域ごとに深い“個性”を持っていることに魅

せられ、高校卒業と同時にヨーロッパにヒッチハイ

クの旅に出かけるのでした。





特に、クリスマス・シーズンの過ごし方に、それぞれの

地方の個性が出てきます。もともと太陽神(Sun)を12

月25日に祝っていたその同じ日に御子(Son)の生誕祝い

クリスマスを重ねたため、ヨーロッパの全住民が「サン」

を祝うという一大イベントとなりました。

各国の家庭にホームスティをしながら、現地の人々と同

じ目線でクリスマスの生活を伝えているスティーブ氏の

個性的なYouTubeは見ものです。(旅行スーツケースの

効果的な準備の仕方から、現地の熟練したフリー・ツア

ーガイドとのコラボレーションなど)




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さらにリック・ステーブ氏のユニークさは、旅行のルート

を、「その国民が、かつて旅した道順をたどる」という

追体験の手法をとるところが、一般の旅行会社と大きく

異なります。



 A イギリス

たとえばイギリスは、アングロサクソン民族がド-バー海峡

を渡ったカンタベリ-の街から、バスとヨークの町を中心に

民族の足跡をたどります。いずれも、主要な旅行雑誌にはあ

まり全面に出てこない名前です。



・Bath (英単語の「風呂」はこの町名から)

・York(首都 「ニュー」・ヨークはここから?)




いずれも、当時の人口が最も大きい街であり、また街の大聖

堂で王の戴冠式がとり行われた、要塞都市でもありました。


スコットランドの旅も、西海岸のアイオナ島から始まり

ハイランドのクローデン(これも旅行雑誌にはあまり全面に

出てこない名前です)で終わるのも、ステーブ氏の見識の深

さがうかがわれます。


それでは、イングランドのクリスマスを、ウエストミンス

ター寺院を訪れて列席して見ましょう。

エリザベス女王の戴冠式に続き、チャールズ王の戴冠式

もちろんエリザベス女王の国葬が執り行われた式場とし

て、日本のテレビ画面でも放映されたおなじみの教会

堂になっているのではないでしょうか。



王家の墓やニュートンの墓(通路の床に!)に囲まれた聖堂

とは思えない、天上の高さとは正反対に敷居の低さに安らぎ

を覚えます。となりの国会議事堂前にあるオリバークロム

ウェル(清教徒革命)の銅像の眼光も、たしかウエストミ

ンスター寺院の方向を見つめていたように思います。


なおイギリスの超・長寿願組で、毎週日曜日の夕方ゴール

デンタイムにBBC国営放送で流される「Song of Praise」

は50年間にもわたり、生活のただ中で賛美するグループを

各地の聖堂を舞台にして取り上げている人気番組です。

イギリスの国民性とともに、いかに音楽が歌い継がれて

いるものであるかが分かります。日本でも、「題名のない

音楽会」が超長寿番組になっているのは、習知の通りです。


B. ケルティック・ウーマン

 アイルランドの歌姫は10年以上も人気が続き、クリスマス

には世界中が耳を傾けるグループになりました。

 「ケルトの書」の美しい文様を、そのまま音楽で表現した

ような響きにひたれます。同じケルト民族であるスコットラ

ンドの民謡も口ずさみ、さらに新天地「Oh アメリカ」(ケネ

ディ大統領)をも熱唱し、国民性の広さをアピールしてい

ます。



大英帝国に滅ばされ、英国国教会に改宗させられ

ましたが、400年の伝統文化のなせる業か、公同

のカトリック教会に戻ったのは、中世ヨーロッパが

暗黒だった時代に、唯一アイルランドが修道文化で

光り輝いていたそのDNAが復活したかのようです。



C. ゴスペル

日本でもクリスマス・シーズンには、各地でゴスペル

のコンサートが広く聞かれるようになってきました。




アフリカ大陸からアメリカ大陸に強制連行され、奴隷

状態に置かれた黒人たちから生まれたのが黒人霊歌で、

ゴスペルはこの黒人霊歌にルーツがあるとされていま

す。

もし、ゴスペルがキリストの教えのエッセンスを唄っ

ているとすれば、クリスマス・シーズンにゴスペルの

響きが踊りだすのもうなずけます。



D. オラショ

 かつて学生時代に、毎朝FM放送の「バロック音楽の

楽しみ」で皆川達夫氏のはつらつとした解説を聞きな

がら、中世音楽の調べと共に1日をスタートさせた

ものでした。その皆川氏が、長崎で隠れキリシタン

の「オラショ」に遭遇する機会がおとずれます。

 オラショのメローディにラテン語の響きを聞き分けた

のはさすがにプロの耳です。が、キリシタン禁制の時代

から何百年も、それこそ命をかけて歌い継がれてきた

このメロディーはどこから来たのだろうと、大いなる

疑問を抱くのでした。

 しかも、歌詞の内容が正確に分からないまま隠れキリシ

タンが孤島で、回りに悟られないよう注意を払いながら

暗唱し続けるとは、、、


 そこで、バチカンの図書館から始めて世界中の主要な

図書館に足を運ぶのですが、7年もの調査を重ねても

いっこうに出所が分からず苦闘します。ところが

 現在なお世界中に流布している標準的な聖歌で
はなく、十六世紀のスペインの一地方だけで歌わ
れていた特殊なローカル聖歌であった。
 それが、400年前にこの地域出身の宣教師に
よって日本の離れ小島にもたらされ、はげしい弾
圧の嵐のもとで隠れキリシタンによって命をかけ
て歌いつがれて、今日にいたったのである。この
厳粛な事実を知った瞬間、わたくしは言いしれぬ
感動にとらえられ、思わずスペインの図書館の
一室で立ちすくんでしまったのであった。

 皆川氏によると、琴の名曲「六段の調べ」もキリシタ

ンが信仰告白を日本流に音楽に乗せた調べであると言う

ではありませんか!




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 音楽と旅。それは気の遠くなるような歴史と文化を乗り

越えて、私たちに伝えられた世界遺産ではないでしょうか。

美しいメロディーの調べにのせて、クリスマス・シーズン

は私たちにその目的を静かに問いかけています。


 「go to クリスマス」

 世界で初めてのクリスマスは、ベツレヘムの郊外で

夜番をしていた羊飼いに、み使いの歌声がかかりまし

た。

一説には、羊飼いは墓場で夜風を避けていたとも言われ

ています。そこは都会ではなく、荒れはてた野原でした。

クリスマスの名曲「きよしこの夜」も、ドイツの片田舎

の教会で、壊れかかった足踏みオルガンが最初のメロ

ディーを奏でたというではありませんか、、、。