#1218 映画『コットンテール』 | 特に役に立つわけでもないブログ

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個人的な雑記ですから。

 

 

 

 

 

1月に60歳となり、映画を鑑賞するのもシニア割引が適用されるようになったのですが、同時に確定申告のシーズンとなってしまい、確定申告が終わるまでは映画は我慢しましょうということで、初のシニア割映画鑑賞が3月になってしまいました。その間、舞台を2つも観劇してしまったことも遅くなった原因ではあるのですが…(^^;。ということで、観たいと思っていた『コットンテール』をようやく観に行くことができました。主演はリリー・フランキーさん、監督はイギリス人のパトリック・ディキンソンさん。偶然かどうかはわかりませんが、同時期に公開された役所広司さん主演、ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』と同じような外国人監督が撮った日本人の映画。『PERFECT DAYS』の方がアカデミー賞とか何とかで目立ってしまったので、この映画はちょっと割を食った感を感じずにはいられない部分もありますが…。

 

 

 

 

 

タイトルの『コットンテール』というのは“ピーターラビット”の兄弟の名前。この映画は亡くなった妻の遺言で遺骨を、“ピーターラビット”の故郷・イギリスのウインダミア湖に散骨しに行こうとする壮年男性を描いたロードムービー。その間に主人公の兼三郎と妻の明子の回想シーンや、兼三郎と息子の慧(錦戸亮さん)との確執などが丁寧に描かれ、それがけっこう胸を突いてくる部分が多かったように思います。この映画で一つの核として描かれるのが“家族”。優秀な息子に対し嫉妬心を見せる父親…というのは日本映画ではあまり描かれなかった家族の風景ではかなかったんじゃないかと思います。今まで息子との間には妻がいたことで向き合えてきた父親が、息子と直接向き合わなくてはならなくなった。その心の動きを細かく描くディキンソン監督と、無表情で表現するリリー・フランキーさんのコンビは素晴らしいものがあったと思います。高齢層の男性にとってはちょっと切なくなる映画なのかもしれません。

 

 

 

 

 

もう一つの核は認知症。昨年公開された『ロストケア』という映画では親が認知症になった家族の物語が描かれていましたが、この『コットンテール』ではパートナーが認知症になり振り回されるというシーンが描かれています。妻の明子を演じたのは木村多江さん。認知症と診断され、自分が壊れてしまうのではないかという恐怖。認知症が発症してからの狂気。様々な表情が認知症を描くというのはある意味ホラー映画なのではないかと思わされます。そして、死に際に夫の兼三郎を見つめながらの一筋の涙というのが切なすぎます。その時の兼三郎の取った行動がなんだったのか。その部分はファジーにされていたとリリー・フランキーさんはトークショーでおっしゃっていましたが、その部分が後のイギリスでの強引すぎる兼三郎の行動につながっていたのは言うまでもないと思います。ちなみに死因が特定されていませんでしたが、認知症では死にません。

 

 

 

 

 

この映画のひとつの特徴としては、とにかくアップが多い。会話も役者の顔のアップ、アップ、アップのカット割り。これがディキンソン監督の描き方なんだろうと思いますが、大きなスクリーンに顔のどアップが延々続くのは珍しいというか面白いというか…(^^;。会話のセリフが頭の中によく入ってくると思ったのはそのためだったのでしょうか(笑)。そして、このアップの連続で妻の明子の若い頃を演じた恒松祐里さんの表情がイキイキと描かれ、後に認知症で壊れていく木村多江さんの表情がより切なく描かれていたんじゃないかと思います。他にも息子の家族、特に息子の嫁(高梨臨さん)はどう思っていたのかとか、気になるところはいろいろとありましたが、50歳代以降の人は観ておいたほうがいい映画なのではないかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

上映後には“国際派名優”リリー・フランキーさんのトークショーが行われました。(^^)