2022年も残すところあと3日、これが今年最後の投稿となる。


年末といえば、歌謡曲が全盛だった昭和の頃は、テレビ各局がこぞって音楽賞番組を放送していた。1959年にTBS系で始まった「日本レコード大賞」が草分けだが、70年代に入ると「日本歌謡大賞」が作られ、TBS以外の民放キー局が持ち回りで放送した。さらにフジテレビ系の「FNS歌謡祭」、日本テレビ系の「日本テレビ音楽祭」、テレビ朝日系の「全日本歌謡音楽祭」といった系列ごとの賞番組も出来た。


ピンク・レディーもレコード大賞をはじめ数々の賞を受賞しているが、現在もDVDなどで視聴可能な映像の中から、今回は「FNS歌謡祭」で新人賞を受賞した時のシーンを取り上げたい。初々しいミーちゃんケイちゃんと、ピンク・レディーの大ブームを巻き起こしつつあったプロジェクトチームの2人がインタビューに答えているのが見どころである。


(「ピンク・レディー IN 夜のヒットスタジオ〜フジテレビ秘蔵映像集〜」より引用、以下の画像も同じ)


2011年にリリースされたDVDボックス「ピンク・レディー IN 夜のヒットスタジオ〜フジテレビ秘蔵映像集〜」には、フジテレビ系列で放送された音楽賞番組の出演映像がいくつか収録されている。今回ピックアップするのは、76年12月10日オンエアの「発表!FNS歌謡祭 ’76優秀賞」の映像である。


「FNS歌謡祭」は現在も音楽特番として放送されているが、当時はその年ヒットした曲の中からグランプリなどを選ぶ賞番組の形式だった。各部門のノミネート曲を選ぶ予選と、それらの曲から最も優れた曲を選ぶ本選の2回に分けて放送されていた。この映像は予選のもので、ピンク・レディーは優秀新人賞の一組に選ばれている。


ちなみに、この年の最優秀新人賞は、前年11月に「弟よ」でデビューし「想い出ぼろぼろ」もヒットした内藤やす子さんで、各音楽賞の最優秀新人賞をほぼ総なめにした。早くから内藤さん当確の呼び声が高かったように思うが、それはそれとして、年の後半に彗星の如く現れたピンク・レディーへの注目が一気に高まっていた時期で、ピンク・レディーを見たくて賞番組にチャンネルを合わせる人も少なくなかったのではないか。


会場はフジテレビのスタジオだと思われる。名前が読み上げられると、ピンク・レディーのテーブルに集まったスタッフ、関係者らがクラッカーを鳴らして派手に祝福する。リポーターは「夜のヒットスタジオ」など芸能番組で活躍したフジテレビの小林大輔アナウンサー。その小林アナが「何か趣向があるようですから、お任せしましょう」とテーブルのメンバーに振ると、本人たちの決め台詞「ペッパー警部よ!」に合わせ、一同がまたクラッカーを鳴らしたのだが、フライングする人もいて今一つタイミングが合わず、なんだかスベった感じになってしまった。「ああ、それがやりたかったわけですね」と小林アナが冷ややかにコメントする。



ミーちゃんケイちゃんは巻きバラをあしらった可愛らしい黄色の衣装。放送10日後の12月20日には、これと同じ衣装で「夜ヒット」に初出演している。日テレの「スター誕生!」出身ということもあってか、フジの「夜ヒット」に登場したのは意外と遅かった。



デビューは何月ですかと聞かれて、2人は声を揃えて「8月25日です」と答える。以前の記事でも書いた通り、ビクターの上層部などは、当初彼女たちにあまり期待していなかった。年末の新人賞レースに挑むにはデビューの時期も遅く、それだけ不利だったのである。小林アナも「新人の中でもひときわ新人」「一番新しい新人だと思います」と強調し、「よくやりました」と賛辞を送っている。



ミーちゃんケイちゃんがステージに移動する間に、小林アナがテーブルの関係者にインタビュー。まずは、振付の土居甫センセイにマイクを向ける。


小林:あれは相当苦労した振付ですか?

土居:いや、そうでもなかったです。やっぱり曲の構成とか、そういうものが上手くいってたもんで、

   割合スムーズに行きました。

小林:そうですか、実に可愛らしいです。一つのブームです。


「ペッパー警部」の振付では、例の膝を開くアクションに対してビクター上層部などから「やめてほしい」とクレームがあり、土居さんが突っぱねたエピソードは有名である。この年何十組もの新人歌手が出た中でピンク・レディーが新人賞の数組に選ばれ、土居さんにしてみれば「どうだ、ざまーみろ」という気持ちもあったのだろうが、オトナなのでそんなことは言わず、謙虚に作曲者に花を持たせている。


小林アナが「一つのブームです」と発言しているのは興味深い。確かに「ペッパー警部」は振付を含めて大きな話題にはなっていたものの、この時はまだセカンドシングル「S・O・S」が出たばかりの段階である。まさかこの勢いがさらに加速しピンク・レディーの大ブームが2年以上続くとは、さすがに小林アナも想像していなかっただろう。



続いては、ビクターの担当ディレクター、飯田久彦氏である。元歌手の飯田さんをちょっとからかうように、小林アナが声をかけた。


小林:飯田さん、このところ大当たりですね。レコーディング・ディレクターとして。

飯田:いいえ、そんなことないです。タレントさんがいいから、恵まれてます。

   一生懸命やってるだけですから、ハイ。

小林:いい素材が見つかりましたね。

飯田:そうですね。素晴らしいタレントさんに育ってほしいと思ってます。


飯田さんもまた謙虚である。「このところ大当たり」というのは、「ペッパー警部」だけでなく、当時飯田さんが担当していた岩崎宏美さんなどをさすのだろう。この年岩崎さんが出した曲は、全てオリコン週間チャートの上位にランクインしていた。また同年3月には、田中星児さんによる「ビューティフル・サンデー」の日本語盤がリリースされヒットしたが、これも飯田さんが担当していた。



ステージでは、司会の小川宏さん、浅茅陽子さんに挟まれ、ミーちゃんケイちゃんがスタンバイ完了。小川さんの紹介で「ペッパー警部」を熱唱する。




「ペッパー警部」といえば、どの局でもお約束のようになっていた下からのカメラアングル。賞番組であってもやってしまうのは、テレビマンのサガというものか。本人たちが臆せずあっけらかんと歌っていたこともあって当時はさほど問題にはならなかったように思うが、今はコンプラ的に難しいかも…(振付ではなく、ミニの衣装をローアングルで撮影することが、である。)



この時も、新人らしい元気溌剌としたパフォーマンスで魅了したピンク・レディー。テーブル周りのアットホームな雰囲気から、スタッフにも恵まれていたことが伝わってくる。その後の大躍進を支えたチーム力の一端も垣間見える貴重な映像と言えるだろう。


本年もお世話になりました。良いお年をお迎えください。