1970年代のテレビは、多くのスター歌手たちが、歌番組を中心に綺羅星のごとく輝きを放っていた。そんな時代に社会現象とも言われる大ブームを巻き起こしたピンク・レディー。現在DVDなどで視聴できる当時のミーちゃんケイちゃんの映像から、今回は絵柄が何ともシュールなシーンをご紹介する。


「Singles Premium」DVDより引用(以下の画像も同じ)


今回ピックアップするのは、2011年にリリースされたCD+DVDボックス「Singles Premium」に収録されている「NTV紅白歌のベストテン」1977年2月21日放送分の映像である。日本テレビ系列で月曜の夜8時にオンエアされていた人気の歌番組で、当時は基本的に東京の渋谷公会堂からの生放送だった。


ピンク・レディーは、この頃大ヒットしていたセカンドシングル「S・O・S」を歌っている。前年の終わり頃からテレビへの露出も増え、スターへの階段を一気に駆け上がっていた時期で、フレッシュな勢いが感じられる。真紅のスパンコールのミニの衣装で躍動する10代の2人の可愛いこと!まさに旬の果物のような魅力あふれるステージである。





屈託のない笑顔で元気いっぱいに歌い踊る2人だが、よく見ると周囲の様子がなんだか不思議である。舞台上には、ミーちゃんケイちゃんの横に1人ずつ男性が座っている。さらにその後ろにも、若い男性(当時の“ヤング”は今見るとだいぶ老けて見えるが…)が3人ずつ座っているのが確認できる。時々手前の2人の男性の顔が交互にアップになるのだが、「S・O・S」の明るいノリとは真逆に、2人ともまるで何かやらかしてしまったかのような、うつろな表情を浮かべ、とても居心地が悪そうだ。後ろに居並ぶ男性たちも意気消沈していて、まるでお通夜である。こんな至近距離に憧れのミーちゃんケイちゃんがいるのに、アンタら嬉しくないのか、もっと楽しそうにできないのかと言いたくなるところだ。



さらに不思議なのは、舞台の背景である。京都をイメージしているのか、五重塔や日本建築が描かれた書割が組まれている。よく見ると、歌っているピンク・レディーの真後ろには、どこかの庭園に置いてありそうな石の丸テーブルと丸椅子もある。このほか、ステージ上には、昭和の歌番組には欠かせない存在だった大編成のビッグバンドもいて、箱型の譜面台はたくさんの裸電球で装飾されている。



ピンク・レディー、お通夜みたいな男たち、ビッグバンド、五重塔…一見しただけでは意味不明、なかなかのカオスな画面である。なんでこんなことになっているのだろうか?


「Singles Premium」のDVDには、残念ながらピンク・レディーが歌っている部分だけしか収録されていないが、実はこの直前に、一般の男性たちがピンク・レディーとお見合いするという企画コーナーが設けられていたのである。おそらくミーちゃんケイちゃんがそれぞれ4人の男性とお見合いの真似事をして、最も気に入ったお相手を選ぶという趣向だったようだ。歌の最後に、当時日テレのアナウンサーだった福留功男氏の声で「ミーちゃんが選んだのは、日大芸術学部の空手部の主将であります」と影コメントが入っている。


このシーンは、数年前のバラエティー番組でも取り上げられたようだが、何しろ可笑しいのは、お見合いコーナーに集まった若い男性たちをステージに残したままで、<♪男は狼なのよ 気をつけなさい>と「S・O・S」を歌い出すのである。しかも<♪狼が牙をむく>の歌詞で男性の顔をアップで抜くなど、番組ディレクターがわざとイタズラをしているのは明らかである。


当時の日本人は若者であっても、今ほどカメラ慣れ、テレビ慣れしていなかったと言える。満員の渋谷公会堂のステージに上がり、全国向けの公開生放送に出演するとなれば、それだけで大緊張したに違いない。たぶん、彼らはお見合いコーナーでは与えられた指示に従ってそれなりに役割をこなしたのだろう。しかし、さてピンク・レディーの歌が始まったら、どんな顔でどんな風に振る舞ったらいいのか、わからなかったのではと思われる。そこへ<♪男は狼なのよ>と来た。カメラで顔がアップになると、まるで晒し者である。「え?オレのこと?」と困惑し、男性陣はますます固まってしまったのではないだろうか。


バラエティー番組で紹介された後日談によれば、ミーちゃんに選ばれた学生さんはのちにテレビ局に入社し、テレビマンとして立派に活躍されたそうだ。