ピンク・レディーのシングルB面曲について、取り止めもなく書いている。今回はシングル4作目にしてミリオンセラーとなった「渚のシンドバッド」のB面で、ある意味ピンク・レディー史上「最大の問題作(?)」かもしれないこの1曲を取り上げたい。





<基本情報>

タイトル:パパイヤ軍団

作詞:阿久悠

作曲・編曲:都倉俊一

発売日:1977(昭和52)年6月10日

A面曲:渚のシンドバッド


前々回の記事で「りんごと歌謡曲は相性が良い」などと書いたが、さて今回はパパイヤである。



日本の流行歌で、パパイヤが出てくるヒット曲と言えば、84年に中原めいこさんが歌った「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」(表記はパパイアとなっている)が有名だ。化粧品メーカーのCMソングで、今聴くとバブル前夜の、日本中が浮かれていた頃の気分を思い出す。キウイもパパイヤもマンゴーも(りんごやみかん、バナナなどと比べると)当時はまだ目新しい果物で、これらを歌に登場させることで南国のオシャレなリゾート的なイメージを表現したかったのだろう。


「パパイヤ軍団」が世に出たのは、「君たちキウイ…」のさらに7年も前である。確証はないが、もしかしたら、これが日本で初めてパパイヤをタイトルに入れた歌謡曲かもしれない。


ネットで調べたところ、日本でパパイヤが本格的に流通し始めたのは68年以降だという。個人的には、キウイは小学生の時には食べていた記憶があるが、住んでいたのが田舎だったこともあり、マンゴーやパパイヤは名前は知っていても、実物を見たり食べたりしたのは、随分と後になってからだったような気がする。世の中的にも、決して馴染みのあるフルーツではなかったはずだ。


そんな時代に、阿久悠氏はなぜパパイヤを選んだのか?理由の一つは、歌の内容以前に、パパイヤという言葉の響きだったと考えられる。「パ」音で始まり、しかもそれが2つ連なっている「パパイヤ」。破裂音と呼ばれる「パ・ピ・プ・ぺ・ポ」の音は小さな子どもをはじめ、人間の耳に心地よい感覚を与えるらしく、作品のタイトルや商品名に入っているとヒットにつながりやすい、という“法則”がよく知られている。


2016年にYouTubeで世界的にヒットしたピコ太郎氏の「ペンパイナッポーアッポーペン」(PPAP)は、まさにこの“法則”を実証してみせたと言える。また菓子メーカー、江崎グリコの報道資料によると、同社では昭和の頃からポッキー、プリッツ、パピコなど破裂音の入った名前の商品がヒットすると言われていたという。「パンシロンでパンパンパン」のCMコピーで知られるロート製薬の胃腸薬は、今年で発売60年になるロングセラーである。


阿久氏自身にも、フジテレビの子ども番組「ママとあそぼう!ピンポンパン」のために、71年に小林亜星氏とタッグで手がけた「ピンポンパン体操」を大ヒットさせた成功体験があった。(ちなみにピンク・レディーは78年発売の阿久悠作品を集めた企画アルバムで「ピンポンパン体操」をカバーしていて、これがまた非常に秀逸である。)


阿久氏がピンク・レディーのデビュー曲を「ペッパー警部」としたのは、当然この“破裂音ヒットの法則”が頭にあったに違いない。グループ名を「ピンク・レディー」としたのは都倉俊一氏だが、ここにも破裂音が入っているのは、単なる偶然ではないかもしれない。


その視点で改めてデビュー以降のシングルB面曲のタイトルを見てみると、「乾杯お嬢さん」「ピンクの林檎」「パイプの怪人」「パパイヤ軍団」と、ここまで全て破裂音が入っている。もちろんB面曲自体をヒットさせようという意図はなかっただろうが、阿久氏がA面用のアイデアを考える際に、破裂音の入った単語をいろいろストックしていて、その中からB面に流用したのではと想像できる。


さて、そろそろ肝心の歌の中身に触れる。まずは上の画像で歌詞を一通り読んでいただきたい。食べごろのパパイヤみたいな女の子たちが、その魅力的な若さを武器に<♪来て来て私を食べに来て>とオトナの男を挑発しているという、かなり際どい内容である。ピンク・レディー史上、最もエッチな曲と言っても過言ではない。


女性を果物に喩えたヒット曲としては、59年に女性グループ、スリー・キャッツが歌った「黄色いさくらんぼ」がある。70年にはバラエティタレントとしても活躍したエバさんらが在籍したグループ、ゴールデン・ハーフによるカバーがヒット、僕らの世代はこちらの方を聴いていた。<♪若い娘がウフン お色気ありそうでウフン>と、一節ごとに女性のセクシーな吐息を思わせる擬音が入るのが特徴的だ。


吐息と言えば強烈だったのが、青江三奈さんの「伊勢佐木町ブルース」(68年)。イントロで管楽器と掛け合いながら、青江さんが切なそうなハスキーボイスで<♪アァ、アーン>とやる。青江さんには悪いが、子どもの頃はこれが苦手で、テレビの前でなぜかこちらが恥ずかしくなるような、居心地の悪さを感じたものだ。


他にも、いきなり吐息混じりに<♪やめて〜>と歌い出す辺見マリさんの「経験」(70年)や、夏木マリさんが<♪ああ抱いて 獣のように>と甘く迫ってくる「絹の靴下」(73年)など、昭和の頃は「お色気歌謡」とも「セクシー歌謡」とも呼ばれる大なり小なり性的な表現を含んだ女性歌手によるエッチな楽曲が、それなりに需要があったのか、または歌謡界の厳しい競争の中で爪痕を残して生き残る術でもあったのか、けっこう作られていた。


もっとも、そもそも歌謡曲自体がほとんど色恋を扱っているので、どこからが「セクシー歌謡」になるのか、その境界は曖昧である。もし「ペッパー警部」だけでピンク・レディーが消えていれば、歌謡史においても単なる「セクシー歌謡」の1曲として片付けられていたかもしれない。


女性と果物の関係に戻ると、「渚のシンドバッド」は77年6月リリースで、いわゆる「夏うた」として明るい開放的な作品を企図した訳だが、阿久氏はその1か月前にリリースされた桜田淳子さんの「気まぐれビーナス」も手がけている。ここで阿久氏は、果物ではないがトマトの果実を持ち出して<♪去年のトマトは青くて固かったわ だけど如何 もう今年は赤いでしょう>と淳子さんに歌わせている。(2番では、酸っぱい葡萄が甘くなる。)


あどけない少女がやがて女らしく大人びていく様を果実の成熟に喩える発想、そして女性から男性に「如何?」と問いかけるスタイルは「パパイヤ軍団」と共通している。とはいえ、2つの曲の印象はかなり異なる。


思うに、既に清純派アイドルとしてのイメージが確立していた淳子さんの作品では、阿久氏も彼女のイメージを全てぶち壊す訳にも行かず、どうしても抑制的にならざるを得なかっただろう。一方で、デビュー1年に満たないピンク・レディーには怖いものなしの勢いがあった。「パパイヤ軍団」はB面でもあり、阿久氏もリミッターを外して思い切り遊ぶことができたのではないか。


A面の「渚のシンドバッド」が、夏のビーチで美女から美女へと渡り歩く調子のいいプレイボーイを歌っているのに対して、「パパイヤ軍団」は女だって負けていないわ、とばかりに、生真面目そうなオトナの男を挑発しドキマギさせている。コンプライアンスにうるさい令和の今なら「パパ活」や「年の差不倫」を想像させ、炎上は避けられないかもしれない。


当時は世の中が大らかだったこと、そして主語を「私たち」にしてミーちゃんケイちゃんが2人であっけらかんと歌っていることで、いやらしくならずに救われている部分も大きい。言ってみれば、女子高に赴任した新米の男の先生を、女子生徒たちがからかっているような、陽気で微笑ましい場面が浮かぶのである。


それにしても、普通ならタイトルは「パパイヤガールズ」とか「パパイヤ娘」とかにしそうなものだが、あえて武骨な「軍団」を組み合わせた阿久氏の非凡なチョイス!石原軍団もたけし軍団も脱帽だろう。


2人はどう思って歌っていたのか?この曲については、ケイちゃん(増田惠子さん)の以下の短いコメントしか見当たらなかった。


「パパイヤ軍団」は詞がエッチですよね(笑)。多感な時期だったので、歌うのがちょっと恥ずかしかったです。

(2011年「Singles Premium」ライナーノートより)


そう言いながらも、レコーディングスタジオに入れば、そこは真面目で素直、仕事熱心なミーちゃんケイちゃんである。この曲も都倉俊一氏の歌唱指導のもとで、いろいろ頑張っている。サビの部分では<♪私たち〜 食べごろよ〜ん>と鼻にかかった甘ったるい声で艶めかしく歌っている。イントロでは、<♪アー>と吐息も入るのだが、こちらは青江三奈さんの熱く湿ったような吐息とは違って、どちらかと言えば、冷たい炭酸飲料を飲み干した時のような爽やかさを感じる。制作陣としては、「セクシー歌謡」そのものではなく、そのパロディを意図していたのかもしれない。


都倉氏の作り込んだサウンドはここでも健在で、B面だからと言って手を抜かず、いやむしろB面だからこそ、ミーちゃんケイちゃんが本来得意とする2人のハーモニーを聴かせる箇所もしっかり用意している。曲の最後、キーが半音上がってサビを繰り返す最後の部分では、それまで下のパートを歌っていたケイちゃんが、ファルセットを使って上のパートでハモっているように聴こえる。ファルセットなので、どちらの声か判別しづらいが、もしケイちゃんなら非常に珍しい。


ピンク・レディーの4年7か月の活動期間中、コンサートなどで「パパイヤ軍団」が歌われることはなかったようだが、2005年の再結成コンサートを収録したDVD「Unforgettable Final Ovation」には、47歳になった2人が「パパイヤ軍団」を歌うライブ映像が収められている。


この時は、ミーちゃんケイちゃんが歌いながら、2個の巨大なバルーンを客席にパスし、観客の頭上をバルーンが行き来するユニークな演出が採用された。バルーンに注意を集めることで、親に連れられてきた子どもたちが、この曲の歌詞の意味を考えないように配慮したのでは、とも思うのだが、それこそ考え過ぎというものか?