ピンク・レディーが1978年11月にリリースしたアルバム「星から来た二人」について書いている。2人が出演するテレビ番組のテーマ曲とCMソングだけで構成した、他に類を見ないアルバムであることは前回述べた。
この頃テレビでも活躍していたバンド、レイジーのメンバー、ポッキーこと井上俊次氏のインタビュー記事である。井上氏は現在、バンダイナムコアーツの副社長を務めている。
歌番組にバラエティー、コマーシャルと、この頃テレビで見ない日はないほど大活躍していたピンク・レディー。超多忙ぶりを伝えるエピソードには事欠かないが、その凄まじさを当時の共演者が証言している記事をネットで見つけた。
この頃テレビでも活躍していたバンド、レイジーのメンバー、ポッキーこと井上俊次氏のインタビュー記事である。井上氏は現在、バンダイナムコアーツの副社長を務めている。
レイジーは大阪の高校生たちが結成したアマチュアバンドだったが、かまやつひろし氏にスカウトされて上京し、77年にプロデビューする。本人たちはハードロックをやりたかったそうだが、所属事務所はベイ・シティ・ローラーズのようなアイドルバンド路線で売り出しを図った。
78年2月にリリースした3枚目のシングル「赤頭巾ちゃん御用心」は都倉俊一氏が作曲。バンドなのに、演奏時には振り付けが入った。振付師はなんとあの土居甫氏。そう、まさにピンク・レディーを成功に導いた2人が関わったのである。作詞は杉山政美氏だが「赤頭巾ちゃん」と言えば「狼」が付き物で、ちゃんと歌詞の中にも出てくる。前年ヒットした「S・O・S」を意識していたのは間違いないだろう。
ともかくこの曲がヒットし、レイジーは一躍人気者に。アイドルとして多忙を極めることになったが、この頃仕事で遭遇したある光景を、井上氏は記憶している。
休日はありませんでしたが、ぼくらはまだマシです。当時トップアイドルだったピンク・レディーさんと一緒に雑誌の表紙を飾る機会がありました。撮影は深夜2時からです。スタジオで待っていると、ピンク・レディーのお二人が眠ったままスタッフに担がれて入ってきました。椅子に座らされ、カメラマンの篠山紀信さんが「はい撮るよ」と声をかけると、ニコっと笑ってパシャパシャパシャ。また担がれてスタジオを出て、次の仕事場へ。
(初出:日経産業新聞2018年7月30日付)
ほとんどコントのような状況である。当時の過酷さを思うとほんとうは笑えないのだが…よくケイちゃん(増田惠子さん)がピンク・レディー時代のことは「あまり記憶にない」と語っているが、まさにこの時など、本人たちは半分寝ていてワケがわからないうちに仕事を「させられて」いるのだから、記憶以前の問題である。
その頃テレビでミーちゃんケイちゃんの姿を毎日のように見ていた視聴者の多くも、ピンク・レディーが売れっ子で忙しいことはわかっていても、まさかそこまでの状況になっているとは思わなかっただろう。
さてそろそろ本題に入る。アルバム「星から来た二人」、今回は最初の3曲について書く。いずれも78年にスタートしたピンク・レディーの冠番組のテーマソングとして、作詞・阿久悠、作曲・都倉俊一の黄金コンビによって作られている。
この年10月に日本テレビ系列で放送が始まった「NTVザ・ヒット!ピンク百発百中!」のテーマ曲。編曲は田辺信一氏。
番組は水曜の夜7時から7時半まで放送されていたが、実は中学生だった僕自身はリアルタイムで見た記憶がない。動画サイトで番組の一部の映像を見たが、いかにもあの頃はこんな感じのアイドルバラエティーがいくつもあったなあ、と懐かしい感じがした。
もし今、放送されていれば、もちろん欠かさず見ると思うが、当時は正直なところピンク・レディー目当てにチャンネルを合わせるほどの熱心さはなかった。「百発百中!」の場合、なぜ見ていなかったのかを改めて考えてみたが、思いあたることがあった。水曜夜7時には、他局で僕たち男子に人気があった野球アニメ「ドカベン」が放送されていて、そちらを毎週見ていたのである。
「百発百中!」がどんな番組だったのか、全くわからないので、初回放送日の新聞のラテ欄に掲載された番組紹介記事を引用する。
ピンク百発百中!
(新番組)
★日本 夜7・00
ピンク・レディーを中心にしたバラエティーショー。レギュラー司会者は井上順、榊原郁恵と、今年四歳の金髪娘バーニーちゃん。毎回人気歌手をゲストに迎え、ゲームやショーを織り交ぜながら笑いと歌でつづる。
内容は視聴者が参加し、次々に出てくる曲に合わせて踊る「フリフリ百発百中」、「バーニーの昔話」、ラジコンマニアが繰り広げる「ラジコン大戦争」のコーナーなど。
(朝日新聞78年10月11日付)
テーマ曲「百発百中」は、前回も少し書いたように、「ペッパー警部」から「モンスター」までピンク・レディーのヒット曲のタイトルを歌詞に織り込んだ、いわばセルフパロディである。
♪拝啓ペッパー警部殿
あなたに挑戦致します
天下に知られた名警部
私をとらえてごらんなさい
挑戦状の主は、怪盗カルメン77。「77」を「ナナナナ」と歌わせるところが上手い。<♪世界に一つの宝石を百発百中ねらいます>という怪盗カルメンとペッパー警部が名勝負、大勝負を繰り広げるというストーリーになっている。どちらかと言えば子どものファンを想定して書かれたと思うが、大人が聴いても、阿久悠氏の言葉のプロとしての技と発想の豊かさに、唸らされるのではないか。
テレビで放送されていたバージョンでは、各コーラスの最後の歌詞は<♪百発百中〜>と番組名そのもので締められていたが、アルバムではこの部分を<♪ジャンジャンジャジャンジャ〜ン>と歌っている。鼻歌の口三味線をあえて歌詞にしたところが面白い。この方がかえって小さな子どもにも覚えやすく、歌いやすいだろう。力が抜けた感じがまた良い。
こういう他愛もないが愉快な曲は、やはりピンク・レディーの得意とするところで、ミーちゃんケイちゃんの歌の魅力も存分に引き出している。特に2番の次の部分が秀逸である。
♪街中私のウォンテッド
手配の写真がブスだから
厳重抗議を致します
2人はここで「ウォンテッド」を思い切り英語っぽく発音していて、歌詞と相まって可笑しみを誘う。怪盗カルメンといえども女の子、ブスに写った手配写真が世の中に出回るのは許せないのである。こういう歌詞も、ミーちゃんケイちゃんの親しみやすいキャラクターだから、嫌味なく聴けるのだろう。
2003年から2年間、ピンク・レディーが再結成され、全国ツアーを行った際、開幕前の会場にBGMとして流れていたのが、この「百発百中」だった。その様子はDVD「PINK LADY LAST TOUR Unforgettable Final Ovation」に収録されている。
まさに「おもちゃ箱をひっくり返したような」ピンク・レディーの世界を凝縮した1曲。往年のファンたちを懐かしいあの時代に誘う入口としては、打ってつけと言える。まさかそういう後々のことまで想定して作られた訳ではないだろうが、阿久・都倉コンビは、数々のヒット曲以外にも、さりげなくこうした財産を残してくれていたのである。
2:千の顔を持つ女
この年4月から9月まで東京12チャンネル(現・テレビ東京)で放送された「ハロー!ピンク・レディー」のテーマ曲。編曲は田辺信一氏。
番組は木曜夜7時半から8時までの放送。これも僕自身、見た記憶はない。田舎に住んでいたので、ネットされていなかった可能性が高い。初回放送日の朝日新聞夕刊のラテ欄を引用する。
☆ハローピンクレディー(東京12、7・30) ピンクレディーが、歌い踊り、しゃべっての三十分。第一回はミーの野球への挑戦。
新ハローピンクレディ
ー「30分出ずっぱり‼︎
祝福五郎ひろみ秀樹」
(朝日新聞夕刊78年4月6日付)
前回も書いたように、テーマ曲「千の顔を持つ女」は宇宙人の目線で綴られた一風変わった歌詞が特徴である。「UFO」に出てくる、宇宙人らしき「あなた」は、「私」が言葉に出さなくても求めるものを次々差し出してくる特殊な能力を持っていた。それに対して、この曲の語り手である<♪宇宙の闇を越えて>来た「私」は、なんと千の顔を持つという。顔を変えて「あなた」の前に何度も現れているが<♪なのにあなたはそれに気づかないのね>と歌うのである。
あくまでSF、ファンタジーの世界であり、ミーちゃんケイちゃんも無邪気に明るく歌っているのだが、もしほんとうにこんな女性がいたらと思うと、正直なところ、背筋がゾッと寒くなるような怖い歌でもある。
まあしかし考えてみれば、どんな人でも、職場や家庭など、場面ごとに違う顔を使い分けている訳で、女性の立場で言えば、もっと私のいろんな魅力に気がついてよ、ということかもしれない。
阿久悠氏のパロディ精神ということで言えば、タイトルは1957年のアメリカ映画「千の顔を持つ男」をもじった可能性もある。またちょうどこの頃、全日本プロレスで大人気だったメキシコ出身のプロレスラー、ミル・マスカラス(“千の仮面”という意味)のキャッチフレーズも「千の顔を持つ男」だった。阿久氏の発想の引き出しの中に、こういうものもあったのだろうか。
3:ミステリー・ツアー
「ピンク百発百中!」と同じく、この年の10月にテレビ朝日系列でスタートした「走れ!ピンク・レディー」のテーマ曲。作曲の都倉氏が編曲も担当している。
番組は木曜夜7時半から8時までの放送。ピンク・レディーのレギュラー番組はほとんど夜7時台に集中していたことがわかる。申し訳ないが、これも見た記憶がないので、やはり初回放送日の朝日新聞ラテ欄を引用する。
走れ!ピンク・レディー(新番組)
★朝日 夜7・30
ピンク・レディーが、ライオン、ゾウ、オオカミ、スカンクなどのぬいぐるみの動物と繰り広げるバラエティーショー。番組のアイドルとしてモンピーという名の二匹のパンダが登場、ミーとケイが声を担当する。二十六回。
一回目はゲストに沢田研二、西城秀樹を迎え、ピンク・レディーが各コーナーを紹介。主なコーナーは笑いと涙のホームドラマ「ミーとケイの動物家族」、動物に関する質問をピンク・レディーが答える「子供動物相談室」など。
(朝日新聞78年10月5日付)
テーマ曲「ミステリー・ツアー」は、イントロの印象的なブラスのフレーズから、いかにも70年代っぽい洒落た雰囲気のサウンドで、何か有名な曲が元になっているような気もするが、どうにも思い出せない。アレンジを都倉氏が自ら手がけているので、ひょっとするとシングルのB面曲の候補として作られたのかもしれない。
♪私はもらったよ 招待状を
クエッション・マークだけ
書き込まれたカードだよ
何かが起こりそう 不思議な予感
がまんが出来なくって 仮面をつけ行ったよ
このことは絶対に秘密だよ
人にいえば消えてしまう
謎は心の夢の重さ 夢見るだけ深まる謎
私はこうして今 うっとり夢見ている
天国だよ ミステリー・ツアー
阿久氏がピンク・レディーに書いた歌詞にしては「百発百中」のような弾けた感じは無く、無難にきれいにまとまっていて、いささか物足りない感じがなきにしもあらずだが、文字にして読んでみるとそれなりに味わいがある。
2人のボーカルは、例えば「がまん」にパンチを効かせるなど、表情にメリハリが感じられ、一発勝負のライブアルバムとはまた違った、スタジオ録音らしい細部にこだわった仕上がりになっている。(続く)