ピンク・レディーの3作目となるライブアルバム「バイ・バイ・カーニバル」。日本武道館での初めてのコンサートも、いよいよ後半に入る。まずはこのアルバム3つ目となるメドレーから。


(近代映画社「ピンク・レディー・メモリアルブック」から)

14(B-①):ロックンロール・メドレー

a)ダイアナ

b)悲しき雨音

c)悲しき慕情

d)ビキニ・スタイルのお嬢さん

e)レッツ・ツイスト・アゲイン

f)ロコモーション

g)スピーディー・ゴンザレス

h)ツイスト&シャウト

i)ロックン・ロール・ミュージック


1950年代後半から60年代前半にかけて流行した、いわゆる“ロックンロール”のヒット曲を、演奏時間5分36秒の間に9曲も詰め込んで構成している。ここはあえてマニアックな方向に走らず、日本でも誰もが知っている有名曲を中心に選曲し、バックダンサー(ポピーズ・シャルマン)を従えての2人のダンスも含めて、会場を盛り上げようと企画されたものと思われる。

 

a)は、カナダ出身の歌手、ポール・アンカ(Paul Anka)の57年の大ヒット曲<Diana>。日本でもロカビリーブームの中、山下敬二郎さんや平尾昌晃(当時・昌章)さんがカバーし親しまれた。ただし映像(動画サイトにアップされたテレビ版)でも確認したが、この曲に関してはミーちゃんケイちゃんはダンスだけで、英語で歌っているのは女性コーラスである。いわばメドレー全体のイントロ的な位置づけであろう。


2人が歌い出すのは、b)からである。


♪来るはずのないあなたを 今夜も待っている

  足音みたいな雨だれ ひとり聞きながら


原題は<Rhythm of the Rain>。62年にアメリカのグループ、カスケーズ(The Cascades)がヒットさせた。日本ではザ・ピーナッツなどがカバーしている。ここでは、例によって岡田冨美子さんがコンサート用に書き下ろした日本語詞で歌っている。


c)は、原題が<Breaking Up Is Hard To Do>。62年にアメリカのシンガーソングライター、ニール・セダカ(Neil Sedaka)がリリースし、全米1位に。76年には兄妹デュオとして人気を博したカーペンターズ(Carpenters)がアルバムに収録、日本のみでシングルカットされている。


♪ねえ行かないでどこへも 私のそばにいて

  あなたに鎖つけちゃおうかな


岡田さんの詞は、女の子が恋人に可愛らしく語りかける感じが、どことなくザ・ピーナッツのヒット曲「ふりむかないで」を思わせ、60年代っぽい雰囲気を醸し出している。


ところで60年代の日本といえば、洋楽カバーの全盛期だったが、なぜか「悲しき…」という邦題をつけた曲がやたらと多かった。ちなみに、ビクターでピンク・レディーを担当していたディレクターの飯田久彦氏も、60年代は歌手として活躍していたが、デル・シャノン(Del Shannon)のヒット曲<Runaway>をカバーした飯田氏のデビュー曲の邦題は「悲しき街角」だった。


d)は英語で歌っている。原題は<Itsy Bitsy Teenie Weenie Yellow Polkadot Bikini>。60年にアメリカのブライアン・ハイランド(Brian Hyland)が歌い、全米1位となった。日本では、あの坂本九さんも在籍したことがある「ダニー飯田とパラダイスキング」がカバーした。「タモリ倶楽部」のコーナー「空耳アワー」のテーマ曲としても知られている。


1コーラス歌ったところで <Two, three, four stick around we’ll tell you more>と台詞が入るのだが、さらに続けて「ウ〜、ウォンテッド!」と例のポーズで決めて、会場を沸かせている。(アルバムでは、ミキシングによって会場音があまり聴こえないが、テレビ版ではここでどっと歓声が上がるのが確認できる。)


そしてd)と次のe)の間に、次の一節が入る。


♪まっ赤な車ぶっ飛ばせ 行先なんか知らないよ

  この命あなたに預けた 好きなように料理して

  熱いうちに Hi Hi 食べてね


この部分のメロディーは、d)e)の原曲には見当たらない。恐らくこのメドレーの編曲者、前田憲男氏が作った「つなぎ」のパートだと思われる。


e)は、世界中にツイスト・ブームを巻き起こしたアメリカのロックンロール歌手、チャビー・チェッカー(Chubby Checker)が61年に放ったヒット曲<Let's Twist Again>。この曲と次のf)は英語での歌唱。


f)は62年にリトル・エヴァ(Little Eva)が歌って全米1位となった<The Loco-Motion>。これも数多くカバーされている有名曲で、日本では伊東ゆかりさんなどが歌っている。ちなみに、作曲者は70年代にシンガーソングライターとして大成功するキャロル・キング(Carole King)である。


ステージでは、ミーちゃんケイちゃんの間にポピーズ・シャルマンのダンサーたちが一列に並び、肘を曲げた状態で両腕を上げ、前の人の肘のあたりを掴んでつながって動く。アルバムのジャケットの裏面にも写真が小さく載っているが、機関車か鉄道のレールを思わせるインパクトのあるダンスだ。コンサートの一つの見せ場と言っても良いだろう。土居甫センセイの振り付けだと思われるが、さすがの発想である。



g)は、ワーナー・ブラザース製作のアニメ「ルーニー・テューンズ」(Loony Tunes)に登場するネズミのキャラクターSpeedy Gonzales>を歌ったコミックソングで、62年にパット・ブーン(Pat Boone)がヒットさせた。


♪いいじゃないの ちょっと飲ませてよ

  ほろほろ酔って甘えたいの

  今夜の私は特別なのよ

  ぴったりあなたに吸いついて離れない


岡田さんの詞はオリジナルとは全く関係ないのだが、<吸いついて離れない>など、絵を想像するとコミカルでちょっとアニメっぽい感じもある。そもそも「ペッパー警部」から始まる阿久悠氏の“おもちゃ箱路線”は外国のアニメを意識していたというから、ピンク・レディーとアニメは相性が良いのだろう。 

 

h)<Twist and Shout>は、63年にヒットしたビートルズ(The Beatles)によるカバーが世界的に知られているが、元々は61年にアメリカのR&Bグループ、トップ・ノーツ(The Top Notes)がリリースしている。この曲はほんのさわりだけだが、岡田さんらしい詞で歌っている。

 

♪知りたくない たとえ

  あなたに恋人がいてもいいのよ

  今夜良ければ


メドレーの最後となるi)は、前作「サマー・ファイア‘77」のメドレーでも歌った<Rock and Roll Music>。ただし、前作にはなかった以下の部分が、最後に付け加えられている。これもメロディーは前田憲男氏によるものと思われる。

 

♪明日の夜明けをいっしょに

  あなたと見たいの いっしょに

  Rock and Roll !


例によって、このメドレーも歌って踊って全力投球のパフォーマンスだが、コンサートも後半に差しかかって、体力的にもしんどい時間帯ではなかっただろうか。


何度も書いてきたように、ケイちゃんは11日前に腹膜炎の手術を受け、傷がまだ縫い合わされていない状態、ミーちゃんもケイちゃん休養中に「1人ピンク・レディー」で孤軍奮闘してきた疲れがピークに達していた。改めて映像を観ると、ダンスで大きめのアクションが入る際など、2人の足元がふらついているように見えるところもあったりする。それでも満面の笑顔で歌いながら、ステージを元気いっぱい動き回っている姿には、神々しささえ感じるのである。


今回はこのメドレーまでにしたいと思うが、コンサートはこの後クライマックスを迎える。次回はついにあの曲が!(続く)