今さらではあるが、インターネットを使った配信サービスの登場で、音楽の楽しみ方は大きく変わりつつある。昨年12月からピンク・レディーのオリジナルアルバム12作品のストリーミング配信が始まり、僕自身も今は専らSpotifyで聴いているのだが、特に便利さを実感していることがある。カバー曲の原曲がどんなものかを知りたいと思った時に、検索すれば大抵のものはすぐに聴けるのである。

その機能も活用しつつ、今回はファーストアルバム「ペッパー警部」のB面の収録曲について個別に書いて行く。前回述べた通り、6曲全てがベイ・シティ・ローラーズ(BCR)のヒット曲のカバーであること、ただしその内2曲はBCRのオリジナルだが、他の4曲はそれ自体がBCRによるカバー曲、つまり「カバーのカバー」になっていることを、ここで改めて確認しておく。

(1977年刊「ピンク・レディー ケイとミーの作った本」より)

Bー1:二人だけのデート

オリジナルはイギリスの女性シンガー、ダスティ・スプリングフィールドの1963年のヒット曲で、原題は<I Only Want To Be With You>。個人的には、B面収録曲の中で、この曲が一番気に入っている。「あなたと一緒にいたい」という熱い恋心を歌った、ポップスらしい明るく軽快なラブソング。当時18歳のミーちゃん、19歳のケイちゃんが、まさに等身大のティーンズの女の子の気持ちを、伸びやかに溌剌と歌い上げ、爽やかな傑作に仕上がっている。

何と言っても岡田冨美子さんの日本語詞が素晴らしい。詞を書き始めると次々と言葉が湧き上がってくるという異才の作詞家、岡田さん。その詞には、難しい語彙や凝った比喩などは一切出てこない。誰にでもわかる平易な言葉だけで女の子の気持ちを表現するのだが、ストレートであっけらかんとした物言いが小気味良く、時にハッとさせられる。そして、原曲の英語詞を超えて、より鮮烈なイメージで心に刺さってくる不思議な魅力があるのだ。

例えば歌い出しの2行で、オリジナルの英語詞と岡田さんの詞を比較してみよう。(括弧内は原詞の意味に従った拙訳)

♪I don't know what it is that makes me love you so
  I only know I never want to let you go
(何があなたをこんなに好きにさせるのかわからないただわかっているのはあなたと離れたくないこと)

英語詞は、冒頭から「好き」という気持ちがどれだけ強いものなのか、「わからないこと/わかっていること」の対比で表現しようとしている。これはこれで優れているとは思うが、岡田さんは原詞からあえて離れ、違うアプローチをしている。

♪はじめてあなたを見た時に
  稲妻が走り抜けたの

1行目に時制を持ち込むことで「物語」を立ち上げ、さらに次の行の「稲妻が走り抜ける」という一言で、出会いの衝撃を五感を通してドラマティックに描いているのである。たった2行だが、聴き手の心を一気に掴むのではないだろうか?

他にも♪溺れたい あなたの海で かまわないわ 助からなくても」、♪ケンカして泣きながら でも愛しちゃう」など、岡田さんならでは“刺さる”フレーズが連発される。オリジナルの英語詞は省略するが、いずれも原詞を離れて、心の赴くまま、瞬間的に思い浮かんだイメージを自由奔放に綴っている感じがする。そのナマっぽさと勢いが、熟考して言葉を選び抜いて書かれるタイプの詞とは異なり、熱い恋の真っ只中にある女性の心の動きをリアルに表現しているように思う。

そして、個人的に一番好きなのは、最後に来るこのフレーズである。

♪見つめられると熱くなる
  からだじゅうが太陽になる
  からだじゅうが燃える 太陽になる

ミーちゃんケイちゃんは、素直に屈託なく、カラッと歌っているのだが、好きな子にこんなことを言われたら、もうたまらないだろうなあ。

蛇足だが、英語だと主語の“I”は、男でも女でも変わらないので、BCRが歌うバージョンは、男性が女性への気持ちを語っていると解釈するのが普通だろう。もちろんそれでも成立するのだが、ピンク・レディーのカバーの詞は、全て彼女たちが歌うことを想定し、“女ことば”で書かれている。その意味で、ダスティ・スプリングフィールドによる原曲の世界観に近い。さらに、新進の女性デュオとしてのピンク・レディーの若々しい生き生きとした魅力を充分に引き出し、曲に新しい命を吹き込むことに成功している。

なお、アレンジはB面全体を通してBCRのバージョンをベースにしているが、女性コーラスが入ることで2人のヴォーカルを効果的に盛り立てている。(Bー1とBー5はあかのたちおさん、他はいしだかつのりさんが担当)

Bー2:朝まで踊ろう

原題は<Keep On Dancing>で、63年にアメリカのグループ、ジ・アヴァンティスがリリース、その後65年にザ・ジェントリーズがカバーしてヒットした。BCRは71年にこの曲を再カバーし、デビューしている。

再々カバーに当たるPLバージョンだが、いきなり手拍子や歓声が聴こえてくるので、てっきりライブ会場での録音かと錯覚する。しかし、ドラムだけをバックに2人の歌が始まると手拍子が不自然にフェードアウトし、聴こえなくなる。そして間奏やエンディングになると、また掛け声や拍手が入ってくる。どうやら演奏とは別に、どこかに人を集めて録音したものを、後から合成したようだ。

何のためにそんなことをしたのか?ノリの良い曲なので、さらに盛り上げるための効果として使ったのだろうが、もう少し踏み込むと、恐らくこの時点で既に、実際のコンサートで歌うことを想定していたのではないか。

間奏では、ドラムのソロに合わせて男性たちの声で「ピー、アイ、エヌ、ケー、エル、エー、ディー、ワイ、ケイちゃん、ミーちゃん、ピーンクレディー!」と、いわゆる「応援コール」が収録されている。確かなことはわからないが、もしかしたら実際に親衛隊(?)に協力してもらって、“模範演技”として録音し、全国のファンに広めようと考えたのではないか。

ピンク・レディーが初めて本格的なコンサートを行ったのは、アルバム発売の約2か月後、77年3月31日に東京・芝の郵便貯金ホールで開いた「チャレンジ・コンサート」である。そのオープニングで歌われたのが、まさにこの「朝まで踊ろう」だった。(この時の模様は収録され、後にライブアルバム「チャレンジ・コンサート」としてリリースされている)

サビで繰り返される「♪踊り続けるのよ 夜は短いから」の部分では、ミーちゃんケイちゃんと女性コーラス、3者のハモりが心地よい。

Bー3:マネー・ハニー

BCRのオリジナル曲で、75〜76年に世界的にヒットした。これぞロック(パワー・ポップ)という感じの力強いギターサウンドに加えて、PLバージョンでは女性コーラスが「♪マネー、マネー、マネー」とフル稼働、ミーちゃんケイちゃんの思い切り良い歌いっぷりと合わせて、音的にすごくカッコいい。

洋楽では「マネー=お金」をテーマにした楽曲が時々あるが、あまり日本の歌で歌われることはないように思う。日本人の感性には、馴染まないのだろうか?岡田さんの日本語詞も悪くないのだが、ちょっと10代の女の子が歌うには、リアリティに乏しいかも。という訳で、あまり詞にこだわらず、あくまでもサウンドを楽しんでいただければと個人的には思う。

うーん、最後まで行きたかったけど、なかなか進みませんなあ。あと3曲、次回こそは何とか完結させたい。(続く)