♪世間をさわがす不思議なことは

  すべては透明人間なのです

 

あの頃のミーちゃんケイちゃんに会える貴重な映像を収録したDVD「ピンク・レディー in 夜のヒットスタジオ」。初めての出演から順に、これまで17回分を見てきたが、ディスク1に収録されているのは、あと残り2回となった。1978年9月25日と10月30日、いずれの回も彼女たちが歌ったのは、9枚目のシングル曲「透明人間」である。

 

「透明人間」といえば、「ザ・ベストテン」に出演した際、2人の姿がほんとうに消えてしまう演出が、当時文字通り世間を騒がした。生放送で彼女たちが歌っている途中で、予めVTRに収録しておいた同アングルの無人の映像に切り替えるトリックだったと思う。その翌週の放送で、司会の久米宏氏が「他局の社員も驚いていた」と自慢していたのを覚えている。

 

実は「夜ヒット」でも「透明人間」を歌ったこの2回の放送で、不思議というか、不可解なことが起こっていた。


まずは9月25日放送の回。ミーちゃんがブルー、ケイちゃんがピンクのシースルーのコスチュームで登場。この衣装、ミーちゃんはあまり好きではなかったそうだ。何しろ目に見えないはずの透明人間をビジュアルで表現しなければならないのだから、衣装も振り付けも、相当苦労したことと思われる。

 

不可解なのは、歌に入る前の司会者とのやりとりの場面。「今日は『透明人間』を歌ってもらいます」と紹介されている時、なぜかケイちゃんが泣きそうになっている。手で目尻を押さえたり、鼻を覆ったり。その様子に気づいた芳村真理女史が「大丈夫?」とケイちゃんの肩に触れる。DVDに収録されているのは、これだけだ。時間にしてわずか7秒。これより前のやりとりは、一切カットされている。

 

続いて歌唱シーン。この曲は「サウスポー」とは逆に、ミーちゃんが前、その後ろにケイちゃんが隠れて始まる。イントロが流れると、人形のような動きで横にずれながら、ケイちゃんが顔を見せるのだが、この時の表情もやはり泣きそうに見える。ケイちゃん、どうしたの?


そして、いつもと逆、ケイちゃんが下手、ミーちゃんが上手のスタンドマイクに移動して、歌いだす。


♪まさかと思っているのでしょうが

 実は実はわたくし 透明人間なのです

 ショック ショック ショック・・・

 

両手でX印を作る決めポーズの後、2人は中央でダンスをしつつ、いつもの位置に入れ変わるのだが、ミーちゃんと向かい合ったとき、ほんの一瞬、ケイちゃんが手の甲で涙をぬぐったようにも見える。その後は、何事もなかったように、笑顔で最後まで歌い上げた。



いったい何が起きたのか?誰がケイちゃんを泣かせたのか?もしかしてこれも透明人間の仕業だったのか?肝心な部分がカットされている以上、真相は謎のままだ。可愛いケイちゃんをいじめるなんて許せない!と憤りながら、何か情報はないか、ネットで調べてみた。すると、一つのことが浮かび上がった。

 

実はこの日の「夜ヒット」のサブタイトルは「サヨナラ南沙織」だった。南沙織さんといえば、ご存知の通り、篠山紀信氏の夫人で、かつては「元祖アイドル」ともいわれた人気女性歌手である。愛称はシンシア。71年にデビューし、「17 才」などのヒットを飛ばしたが、この78年の10月をもって引退することになり、「夜ヒット」に出演するのは、この時が最後だった。


そこで特別企画として沙織さんを囲み、五木ひろしさん、布施明さん、そして同期の小柳ルミ子さんの4人が「マイウェイ」を歌った。その映像の一部がネットにあったが、花束を抱えたシンシアはもちろん、その肩を抱くルミ子さんも目に涙を浮かべて熱唱している。感動的なシーンである。

 

「夜ヒット」のファンの方のサイトにある、この日の曲順リストを見ると、実はこの「マイウェイ」の直後が「透明人間」だったのだ。つまり、4人の先輩たちによる「マイウェイ」を目の当たりにしたケイちゃん、感動のあまり泣いてしまい、そのまま自分たちの出番を迎えたのではなかったか。


ちなみに沙織さんは、諸事情あって、この前年にピンク・レディーと同じT&Cに移籍している。当時、超多忙だったピンクとは、それほど接点はなかったのかもしれないが、同じ事務所の先輩歌手の引退セレモニーに、感受性豊かなケイちゃんが、涙したとしても不自然ではない。とはいえ、以上はあくまでも推測である。


ちなみに、CBSソニーで南沙織さんを手がけていたプロデューサーの酒井政利氏が、ことし1月、古賀政男音楽博物館のトークイベントで、ゲストのケイちゃん(増田惠子さん)に、一つのエピソードを語った。


この正月に沙織さんと会う機会があり、その時、昨年末のレコード大賞でのピンク・レディーの生パフォーマンス、6分半の4曲メドレーの話になったそうだ。沙織さん曰く、「男の人にはわからないと思うけど、あの踵の高いブーツでステージに立つのは、ほんとうに命がけじゃないと出来ないのよ」


「夜ヒット」最後の共演から40年。元祖アイドル・シンシアからピンク・レディーへ、最大級の賛辞である。


10月30日の回については、また次回。