ワーハッハッハッハハ!

キャーッ!
ついに来ました!
「夜ヒット」に、♪モンスターが来たぞっ!

 1978年6月19日、ピンク・レディーは8枚目のシングルとなる新曲「モンスター」を「夜ヒット」で初披露した。

例によって(?)この日もオープニングと歌唱の時の衣装が違う。最初は2人とも黄色のトップスだったのだが、歌唱時にはミーちゃんが黒、ケイちゃんが白のトップスと、羽根に覆われた黒のミニで登場している。足元も羽根つきのサンダル。2人とも「モンスター」の衣装は、柔らかい羽根の感じが気に入っていたそうだ。

レコード発売日の6日前。いつも彼女たちに優しいのか意地悪なのかよくわからない司会の井上順氏(この年9月スタートの日本テレビのレギュラー番組「ピンク百発百中!」でも共演している)は、振り付けが出来たばかりで「もしかして今日、間違うかもわからない。それを期待しているわ」とプレッシャーをかけてくる。「そうですね」と答えるミーちゃんケイちゃん。余裕の笑顔である。だって、もう他所で披露してるもの(笑)。現に「さっきまでプールサイドでお仕事だった」そうだ。「NTV紅白歌のベストテン」の生放送か。ある記録によると、この日はその前に「レッツゴーヤング」の収録もあったようだ。



都倉俊一氏の声を加工した不気味な笑い声に、金切り声で悲鳴を上げる2人。イントロからもう別世界である。ここまでくると、もはや歌謡曲を超えて「ピンク・レディー」自体がエンターテインメントの一つのジャンルだ。

阿久悠氏が言うところのアメリカンコミック的な世界を、生身の2人が歌とアクションだけで創り出す。今なら恐らく、凝ったミュージックビデオで表現するところだが、当時はまだ日本の音楽界にそんな発想はない。アメリカでMTVが誕生したのは1981年のことである。

土居甫センセイの振り付けは、ホントにどこまで行ってしまうのかと思うほど、新曲が出る度にどんどん高度化していく。イントロでは、まず悲鳴を上げる女の子、ムックリ起き上がるモンスター、それを塀越しに覗く野次馬?と、異なる人格が次々に登場、それをフリだけで演じ分ける。土居センセイは、あくまで「振り付け至上主義」を貫き、たとえ彼女たちが「この動きではつらくて歌えないから変えてほしい」と言っても、耳を貸さなかったという。また、簡単にフリが出来てしまうと感動は与えられないと、曲中に必ず間違えやすい難しい箇所を作ったというから恐ろしい。

そして「ウォンテッド (指名手配)」もそうだったが、全く異質なフレーズをいくつも組み合わせて構成していくパッチワーク的な手法の都倉サウンド。どこか「オペラ座の怪人」のようなミュージカル的な感じもある。ケレン味たっぷりに驚かしたり、おどけたり、曲の表情を変えながら、ここぞというところで、涙が出るほど美しいメロディーをきっちり持ってくる。

♪夏の夜は色っぽく更けてゆく 
  誰もが熱いキスを交わし たまらない

ケイちゃんがミーちゃんの腰を抱くようにして2人が顔を寄せる。いい。ホントにたまらない。ピンクの魅力は、こういうところにあるよ。そして曲の終わりの決めポーズで、2人が互いに重なるように背中を反らせるのだが、この日はそのままケイちゃんが少しバランスを崩し、笑いながらミーちゃんの方に凭れかかる。かわいいよ、ケイちゃん。お疲れ様!

と、おじさんすっかり盛り上がってしまったが、実は78年当時、中学生になったばかりの僕らは、そろそろこの「モンスター」あたりで、ピンク・レディーが「お腹いっぱい」になっていた頃だ。前にも書いたが、歌番組では、注目がニューミュージックのアーティストたちに集まろうとしていた。

奇しくも「モンスター」と同じ6月25日に、 ピンクと同じビクターから発売されたのが、サザン・オールスターズのデビュー曲「勝手にシンドバッド」である。「モンスター」が7月10日から8週間に渡って、オリコンシングルチャートの1位を独走したのに対して、サザンはすぐには注目されなかった。初めて「勝手にシンドバッド」を耳にしたのは、夏休みだったろうか、最初はとにかく何を歌っているのか全く聞き取れず、衝撃だったことを覚えている。てっきりコミックバンドだと思ったほどだ。それがまさか、平成最後の「紅白歌合戦」のトリで、ユーミンまでが乱入して歌われることになるとは、当時これっぽっちも思わなかったが、ともかく中学生が飛びつくには充分なインパクトはあった。

「勝手にシンドバッド」は「モンスター」が最後に1位となった8月28日付けのチャートでやっと15位に登場する。2学期が始まると、特に男子の間で鼻歌混じりに「今何時?そうね大体ね」が流行っていった。そして10月9日付けのチャートで最高位の3位を獲得。ちなみにこの時、ピンク・レディーは次の「透明人間」が2位にランクインしている。

「モンスター」が来た夏。その陰で、やがて歌謡界の地図を塗り変える地殻変動が、じわじわと進んでいた。