1977年6月27日の「夜ヒット」は、前回に続き「渚のシンドバッド」。レモンイエローの衣装は、ぎりぎり本番の1時間前に完成して届けられたのだとか。ピンク・レディーの衣装を手がけていた野口庸子さんのデザインと思われる。テレビは夢を売る世界。当時は歌番組も多く、いつも同じ格好という訳には行かないので、衣装作りも大変だっただろう。

歌唱に入る前、司会の芳村・井上コンビはこの曲を「せっせっせ」と紹介した。曲の終わり、コーダの振り付けのことをさしているらしい。ミーちゃんケイちゃんが向かいあって、互いに両手を突き出すアクション。相撲のツッパリにも見えるアレだ。
改めて映像を見ていて気づいたのだが、あの振り付けのポイントは、手の動きもさることながら、実は脚にある。互いに手を突き出す横方向の動きと同時に、膝を曲げ伸ばしすることで、体を一度沈めて戻す垂直方向の動きを加えている。これによって、躍動感が格段に増しているのだ。
これは「カルメン'77」のイントロ、例のお尻を左右に振るアクションも同様である。ちなみに6月6日の出演時、オープニングメドレーで、ピンク・レディーの前に登場した梓みちよ(当時既にベテランだった)が、ピンクを意識した脚と腕を露出した衣装で、カルメンを振りつきでワンコーラス披露した。(普通メドレーでは曲のさわりだけを短く歌う。)私が小娘にはない女ざかりの魅力を見せてあげるわ、と言わんばかりだったが、決定的に違ったのは、膝を使っていないことだった。イントロの例の振り付けは左右にお尻をヒョコヒョコ振るだけでいかにも軽く、本家の2人の全身でぶつかっていく真剣勝負の切ない感じが全くないのだ。
振り付けの土居甫センセイは、〈ぼくの踊りの基本は「腰と膝」だ〉という。もともとアイドルの歌に振りを付けるようになったのは、テレビで歌う際、イントロや間奏で動きが無くては手持ち無沙汰だから、あるいは曲の一部のフレーズを強調するためだったという。従って、手でちょっとした仕草を見せるとか、上半身の振り付けが中心となり、画面に映らない脚の動きは、付随的な位置づけだったようだ。そもそも上半身、下半身をフルに使っていては、肝心の歌唱の方が難しくなる。(今なら口パクという手があるが)
ところが、土居センセイは静岡から上京してきた2人の最大の魅力は「大地をがっしりと踏みしめている太い腿(あし)」だと見た。そこでピンク ・レディーの振り付けには、大胆に脚の動きを取り入れたのである。
例の「ペッパー警部」の「開脚アクション」もそうだが、それ以上に2人の脚の魅力を最大限に引き出したのが、この「渚のシンドバッド」だったと思う。単にミニスカートを穿いて、脚線美を見せるだけのアイドルは他にもいただろうが、これだけ脚を使って様々な表現にチャレンジし、見事にやってのけた歌い手はピンク・レディー以外になかった。
あのハイヒールでの片脚跳びを初めて見た時は、思わず息を飲んだ。しかも斜め後ろに、2人はいとも軽やかに跳んでみせた。
かと思うと、浮気なシンドバッドを責めるように、ドラムに合わせてガン、ガン、ガンと右足で蹴りを入れる。特にミーちゃんのキックは効きそうだった。
そして、 ♪セクシ〜と、自慢の太腿を悩ましげにアピールすることも忘れない。
少年だった約40年前の夏、「渚のシンドバッド」を歌うミーちゃんケイちゃんのしなやかでまぶしい脚の残像が 、今でも記憶の中に鮮烈に残っている。
この回の放送日6月27日付けのオリコンシングルチャートで「渚のシンドバッド」は前週トップの沢田研二「勝手にしやがれ」を抑えて、初の1位を獲得、以後3週にわたって首位の座をキープする。しかし、この夏の戦いは、まだ始まったばかりだった。