大阪豊中市、阪急服部駅から徒歩15分のところに、西福寺というお寺があります。



西福寺では毎年11月3日、晩年の伊藤若冲が描いた襖絵「仙人掌(さぼてん)群鶏図」などが、年に一回この日のみ公開されます。

我が家から西福寺まで、時間はかかりますが徒歩圏内。

どうにか雨の降らない午前中に行くことができました(*^_^*)


境内には扇松と言われる立派な松があります。

 
天明の大火(1788年)により、居宅をはじめ作品の多くを失い、失意の中にあった若冲を暖かく迎い入れたのが、西福寺の檀家でもあった大阪鰻谷の薬種問屋の主人吉野五運です。

吉野五運は大阪でも三本の指に入る富商で数奇者でもありました。
若冲をラクダに乗って箕面の滝見物に誘ったという話もあります。

襖に描かれた鶏も外国産の派手やかな種で、当時珍しかった仙人掌(さぼてん)も吉野五運の魁集していた珍しい外国の動植物から題材をとったものではないかと推測されています。

若冲といえば「鶏」。

「仙人掌群鶏図」は若冲における鶏画の集大成・到達点といわれます。



仙人掌群鶏図の絵葉書

 

私の中での若冲と言えば、2007年に相国寺承天閣美術館でみた「動植綵絵」(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)。色彩の美しさと細密描写、そして画面を埋め尽くす動植物に圧倒された記憶があります。
京都国立近代美術館でみたプライスコレクション「鳥獣花木図屏風」。これもマス目画法の斬新さにびっくりしたものです。


西福寺の「仙人掌群鶏図」は総金地着色画で豪華なものです。

若冲75歳の作品。老境において、若冲の鶏に対する暖かい眼差しを感じました。
細密に描かれた鶏と抽象的な仙人掌の取り合わせ。仙人掌という、当時誰も見たことのないような植物を、両脇にもってきたところが若冲らしいな~と思いました。

「仙人掌群鶏図」の襖の裏側にあった「蓮池図」も掛け軸として展示してありました。水墨画で、蓮が咲き花托になるまでが描かれています。写実的な味わいのある絵です。

「野晒図」、「山水図」の掛け軸も。「野晒図」は題と絵にギョッとしますが、掛け軸の周りにきれいな桜が描かれています。
版画の手法が用いられているのかな~・・・?



いただいたパンフレットとプレート
プレートの絵柄の色が毎年変わるようですね(^^♪

 
             
  ところで・・・

「仙人掌群鶏図」に描かれた鶏は、その後制作され、晩年期に多く共通する様式的特徴を孕んでいるという意味で、晩年期の様式を決定づけた作品なのだそうです。(静岡県立美術館の福士雄也さんの考察からの一文)

同年に海宝寺の方丈に描かれた「群鶏図」(京都国立博物館蔵)は水墨画ですが、同じ鶏の形態をみることができます。

今後、どこかの寺や美術館で若冲の「鶏」に出会ったら、「仙人掌群鶏図」を思い浮かべることがあるかもしれませんね。


若冲に関するちょっとしたお話です。
西福寺のお隣、小曽根小学校のHP「小曽根の昔」斗米庵さんと西福寺より

 若冲を小曽根の人は「斗米庵」(とべいあん)さんとよんでいました。それは、村の人がバケツ一ぱいのお米を持って行くと心やすく絵をかいてくれたからです。

天明の大火以降、生活のため絵師を生業(なりわい)とせざるを得ない事情もあったのかもしれません。
若冲の私利私欲のない性格や小曽根の村人との交流が偲ばれます。
若冲は憧憬する売茶翁にならって斗米庵・斗米翁と号しています。



鐘楼の脇の柿が鈴なり


西福寺では、毎年11月3日に「仙人掌群鶏図」など無料で公開されています。
境内には見事な松もあり、本堂の欄間の彫刻も素晴らしいものでした。
貴重な時間を過ごすことができ、感謝致します。