甘いものは脳を活性化するという都市伝説、実は間違いなのです。なんとなく飲んでいる飲み物があなたの能力を下げているかもしれません。キーワードはインスリン抵抗性です。
インスリンの役割は?
インスリンは、炭水化物を含む食事や飲み物で血糖値が上昇すると膵臓から分泌されるホルモンで、次のような重要な役割があります。
1. 筋肉や脂肪、肝細胞が血中からブドウ糖を取り込み、血糖値を下げる
2. 筋肉や肝臓が余ったブドウ糖をグリコーゲン*に変換し貯蔵するように刺激する
3. 肝臓での糖新生を抑制して血糖値を下げる
4. 脂肪細胞のブドウ糖の取り込みを加速し、脂肪分解を阻止する
5. 脳内のドーパミン分泌を増やす
6. 脳細胞の血糖吸収を助け、脳機能や血管新生を管理制御する
けれども血糖値が下がらない生活をしていると、血中のインスリン濃度の高めに保たれるため、脳を含む多くの臓器がインスリンに反応しなくなります。この現象を“インスリン抵抗性の発現” と言い、多くの慢性病の原因となっています。
砂糖を飲むと脳が燃料不足になる
仕事中に炭酸飲料や缶コーヒーが欠かせない人、朝一番にオレンジジュースを飲む人、おやつ代わりに甘い飲み物を飲む人は要注意です。こういう生活習慣を続けると、脳細胞がインスリン抵抗性を発症します。そうなると脳が血糖を取り込めない上、機能管理ができないため、脳がうまく働かないだけではなく、細胞や毛細血管の修復や新生ができないため、徐々に脳細胞が失われて脳が縮むと考えられています。このことから、アルツハイマー型の認知症は「3型糖尿病」と呼ばれ 、子供のうつ病や多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder; ADHD)、自閉症スペクトラム障害の発症と、妊婦の高インスリン血症や妊娠性糖尿病の関係が指摘されるのです。
砂糖依存症
スイーツがないと生きていけないと思っている人、脳がインスリン抵抗性を発症しているかもしれません。血糖値が正常でも、インスリンに反応しない脳は血糖値が低下していると勘違いして、頭痛やイライラ感などの不快な症状を出して 食べるように仕向けます。これが砂糖依存症の始まりです。この現象は子供にも起こります。
キレる子供
脳は寝ている時も勉強している時もほぼ同じ量のブドウ糖を消費するので勉強中のスイーツに学習能力を高める効果はありません。それどころか血糖値の乱高下で感情の起伏が激しくなりキレやすくなります。さらに脳がインスリン抵抗性を生じると、脳内ドーパミン分泌が減ることからキレるという行動障害が出ると考えられています 。
Negative reward(負の報酬)
座って仕事をする人にとって、飲む砂糖は負の報酬です 。食べるフルーツは栄養豊富な正の報酬ですが、食物繊維を含まないジュースは別物です。とは言っても仕事中にホッとするひと時が欲しいですよね。そんな時は、①レモンスライス入りの炭酸水、②キシリトールやステビアなどの天然甘味料入りの飲み物、③香り高い緑茶やハーブティー、④ちょっと立ち上がってのストレッチ、などはいかがでしょうか?
*グリコーゲン:主に肝臓や筋肉に貯蔵エネルギーとして貯められる高分子のブドウ糖のこと
参考文献
1. Stouffer MA, et al. Insulin enhances striatal dopamine release by activating cholinergic interneurons and thereby signals reward (2015) Nature Communications (6) 8548
2. Stern M. Insulin signaling and autism. Frontiers in endocrinology vol. 2 54. 14 Oct. 2011
3. Ratey JJ. and Hagerman M. Spark: the Revolutionary New Science of Exercise and the Brain. Little, Brown, 2013.