これは香港人夫と出会う前の出来事。
日本と同じく香港にも、公共の乗り物(1階&2階立てバス、電車、タクシー)があるけど、他にミニバス(小巴・シウバ)という便利なものがある。
ミニバスには2種類あって、クリーム色のボディにてっぺんが緑のものと、赤のものに分類されていた。
確か緑は、(声をだせば)各駅に停まってくれ、赤はどこでも停まってくれる。
料金も何十円~と安いし、速度も最高速度の70キロを大幅に超えて、ぶっ飛ばしてくれるので、速い(危ない)。
普通のバスで40分くらいかかる道のりをミニバスでは10分ちょいで行く事ができる。(いいのか?)
運転手は有る意味、プロ中のプロで、車間距離も数センチで走行する。(スリル満点です)車内では、乗客は必ず安全バーを握り締めているし、寝ている人を見かけたことがないからすごい。
私は最寄駅から自宅に帰るのに、この緑のミニバスを利用してみよう!と思いたった。停留所で駅を確認すると自宅マンションの名前が書いてあった。たしか2ドル(30円)くらい。歩くと15分、タクシーだと200円くらいだったから、普段は歩いていたけど、新しい事を試してみたかった。
夜道を一人で川沿いを歩くのもちょっと怖いかなと思ったのだったけど、今考えれば、香港は日本より治安が良いと思う。普通に街を歩いてても日本では考えられないくらい巡回中の警察官に出会うし、香港には痴漢が居ない。まぁ、スリは多いみたいだけど。
さて、バスに乗り込み、適当にあいてる席に座った。
たったの2,3駅で自分のマンションに近づいたところで、誰かが「第一城、有落、口吾該!(すいません、第一城で降ります!」と叫んだ。
バスの運転手は返事をせず、片手をあげた。振り返ったり、返事をせず手をあげるのが合図らしい。
無事、到着。ものの5分。
わー超便利で、速くて楽しい!
それから数回、乗って、同じマンションの住人であろう誰かが叫んで、自宅マンションに降り立った。
ある夜。21時すぎ。いつもより人が少ない。
また同じバスに乗り込み、マンション近くまで来て降りる準備をしていた。
いつも降りるバス停(といってもお粗末な手書きの看板があるだけ)をものすごいスピードで過ぎ去った。
「お?」と思うと同時に、「あ、今日は同じマンションの人がいないんだ」「ってことは、自分で降りるって言わないといけないんだ」といろんな事を考えていた。
でも、私は駅からマンションまでの道しか知らない。なぜなら、この先は行ったことがない。
⇒次の駅名知らない⇒降りるって言えない⇒次誰かが降りるまで降りれない。
あぁ、アホすぎる!自分。
しかも、人が少ない分、静まり返っている社内で大きな声をあげるなんて出来なかったし、カタコトの広東語とか英語で思いっきり外人ってバレるのも恥ずかしてなってきてしまった
ミニバスは速度を上げながら知らない夜道を走り続ける。
必死に建物とか道順を覚えるように、外を見ていたけど、ミニバスは街から山道をのぼり始めていた。
運転手は時々ミラーで降りる客がいないか、目だけで確認するけど、私はもう緊張で固まっていた。
「どうやって帰ろう?」「帰りのお金あるかな?」「終点まで行って、また戻りのバスに乗ればええかな?」
・・・といろんな案を練っている時、一人のおっさんが「有落(おります」と叫んだ。
「あっ、駅名言わなくても有落だけでいいんや・・」って分かったけど、もう遅い
とりあえず急いで一緒に下車。バスは私が降りるか降りないかの時点で走り出した。
トトロの猫バスのような速さで駆け抜けてゆく。
降りたらあたりはまっくら、山道。
一緒におっさんは、変な顔をして何回もこっちを見ながら進行方向へと歩き出した。
怖い~!山道もおっさんも怖い!
!!!おまけに前から野良犬が歩いてくる~もうダメ~!
野良犬は、ただ遊んで欲しいみたいだったけど、しつこく付いて来た。
半泣きで、元来た道を一生懸命思いだしながら歩きだした。
反対車線にバス停があれば、それに乗ったらマンションとか駅に行けるかも知れないと思ったけど、
もう何かに乗る勇気も無かった。
自分でも驚きと賞賛に値する記憶力により、30分くらい歩いて、やっとマンションが見えて来た。
50棟もあるマンションを違う角度から見たら、また迷子になりそうやん・・・。
今度、一度あたりを散歩してみないと・・そしてミニバスにはもう乗りませんと誓った。
後日、香港人夫と出会ってから、何回もミニバスに乗る事になったけど、このときのトラウマで一人では絶対に乗らないし、乗っても駅名を叫ぶのは彼の仕事になった。