北朝鮮における歌謡曲のあり方 | フランシス
 嵐のように毎日降りかかる北朝鮮報道の中で、皆さんは北朝鮮の歌をイヤでもどこかで耳にしたことがあるだろう。中国の歌手のようにやたら甲高い声で明るく歌う女性歌手たちや、ソ連の赤軍合唱団を真似したと思われる大勢の軍人が舞台せましと合唱している様子がテレビでよく報道される。(特に金正日総書記の誕生日など)

 北朝鮮ほど音楽を政治目的に利用している国は他にないだろう。約99%の歌謡曲が金日成・金正日を讃える、党・軍を讃える内容であるだろう。韓国や日本でも有名な「口笛」など恋の歌や叙情歌が全くないわけではないが、その中にも政治用語が登場する。
 
ある本の内容によると北朝鮮の歌の曲調は
歌謡曲調、
軍歌・行進曲調、
声楽曲調、
唱歌曲調、
民謡調、
童謡調に分けられるようである。

歌詞内容は
 金日成・金正日を讃え忠誠を尽くす内容
 金親子直系の親族を讃える内容
 祖国に忠誠を尽くし、建設・発展に努める内容
 党を讃え、忠誠を尽くす内容
 軍をテーマにした内容
 統一をテーマにした内容
 各種労働をテーマにし、その成果を歌った内容
 抗日パルチザン、反米・反日・反帝をテーマにした内容
 政策や国家行事をテーマにした内容
 友好関係をテーマにした内容
 祖国の文化・山河・自然を讃えた内容
に分けられているようである。

 北朝鮮においてCDはおろかラジカセ自体が貴重品であるので、一般労働者の手に届くはずがない。主に観光客向けにホテルの書店や外貨ショップなどで売られている。平壌市内にCD専門ショップは今のところ未確認である。北朝鮮のCDは楽団ごとにシリーズで発売されるのが一般的ですべての楽団のCDが唯一のレコード会社(国営)の「光明音楽社から出版される。

 北朝鮮では基本的に個人の音楽活動を認めていないため、歌手や作曲・編曲家は必ず国営の芸術団体に所属している。制約された条件の中、よくネタ切れをせず曲が作れるという思いにいつもなり、これも作詞家作曲家の才能であろうか。完成した曲は音楽マニアでもある金正日本人が審査してどの楽団に歌わせるかを決めているという証言もある。この国の歌謡曲はひたすら独裁政治に利用されているといえようか。次に代表的な芸術団体の概略と所属する人気歌手を挙げる。


万寿台(マンスデ)芸術団…初期は「平壌歌劇団」と名乗っていた。党直属の楽団で芸術界の最高峰といわれる。1971年には来日公演が行われNHKでも放送された。ハン・クムジュ、リ・インスク、チョ・ヘギョン、リ・ギョンオク、チュ・ジャンヒョク、チョン・ミョンヒ、ソク・ランヒら大歌手が在籍し、比較的多くテレビに出ている。

旺戴山(ワンジェサン)軽音楽団…1983年に万寿台芸術団の歌謡曲部門から独立し、90年代には北朝鮮初の軽音楽バンドとなった。クラシック音楽会風の楽団が多い中、歌詞内容は別としてアップテンポの歌謡曲を多く創作し、後述の普天堡電子楽団とともに一大センセーションを巻き起こした。1991年には中国公演を行い大成功をおさめた。所属歌手もアイドルとして相当な人気を誇り、リョム・チョン、オ・ジョンユン、キム・ミョンオク、チョン・ミョンシン、キム・フィオクら約数十人の女性歌手が在籍している。

普天堡(ポチョンボ)電子楽団…1985年に万寿台芸術団内の電子音楽部門から独立した電子音楽バンド。エレキギターやシンセサイザーを駆使し、北朝鮮の若者から強い支持を集め、90年代には最も人気のある楽団となった。旺戴山軽音楽団と同様にアップテンポの歌謡曲を作り、懐メロも多くカバーした。1991年には日本全国で公演し、話題を集めた。専属の女性歌手は北朝鮮最高の人気と実力を誇り、チョン・へヨン、キム・グァンスク、リ・ギョンスク、チョ・グマ、ヒョン・ソンウォルらが在籍。ここ数年目立った活動が少なく、韓国メディアからは楽団解散説など様々な憶測が出たが、組織を拡大して活動しているようである。

朝鮮人民軍協奏団…その名の通り、朝鮮人民軍直属の音楽団である。先軍政治時代になってからは音楽会の様子がテレビでよく放送されるようになった。現在の音楽番組のほとんどがこの楽団で占められているといえよう。チェ・チャンリムやキム・オクソン、ソク・ジミンなどベテラン歌手がたくさん所属している。

朝鮮人民軍功勲国家合唱団…元は朝鮮人民軍協奏団内の現役軍人による男声合唱団であったが、1998年に9月に独立し単独で活動するようになった。北朝鮮音楽=軍隊の合唱というイメージを定着させている。先軍政治時代以降は最も重要視されるようになった楽団である。ソリストとしてキム・ギヨン、リ・ソンチョル、ファン・リムソンなどがいる。

ピパダ歌劇団…金正日が考案した抗日運動を讃える北朝鮮式オペラ「ピパダ(血の海)」を上演するために活動する。それ以外でも多くの歌謡曲の伴奏を務め、キム・スンヨンや元在日帰国者のチョ・チョンミなど人気歌手が在籍している。

映画と放送楽団…最初は「朝鮮芸術映画撮影所直属管弦楽団」であったが、数回の名称変更を経て現在に至る。その名の通り、映画やテレビドラマの主題歌を中心に印象的な多くの曲を生み出しており、他にもカラオケ伴奏や児童音楽、アリラン祭の背景音楽なども手がけた。北朝鮮歌謡の女王ともいうべきチェ・サムスクやチャン・ウネ、リ・ギョンフン等が所属している。

国立民族芸術団…前身は「平壌芸術団」で主に民族音楽を上演してきたが、内容は北朝鮮式に大部分アレンジされている。専属歌手はあまり有名ではないのかもしれない。

国立交響楽団…日本でいえばN響のようなオーケストラによる管弦楽団である。歌の伴奏はほとんどなく、オーケストラの音楽会が専門で、かつて韓国で公演したこともある。

国家重奏団…数年前からCDが発売されるようになる。イタリアの声楽コンテストで優勝したリ・ヒャンスクやぺク・ミヨンが所属する。

最近「銀河水楽団」(普天堡からの独立?)「三池淵楽団」などが結成され、テレビに出ている。しかし今のところ実態ははっきり分からない。

そしてその他、各道や市が楽団を編成している。


 北朝鮮は情報自体を流さないだけでなく、基本的に集団で1つの芸術を作り上げるものと考えられているので、日本や中国、韓国のように1人の歌手を大々的に売り出すようなことはしない。従って私たちに伝わる情報が極めて少ないのである。私の意見や分析が多く反映されるところもあると思われるがご了承頂きたい。余裕ができれば楽団や歌手について個別の紹介をしていきたいと思う。少ない情報の中でも、なるべく最新の情報をお届けしたいと思うので、乞うご期待。

北朝鮮のCDを購入できるお店を紹介する。
レインボー通商 http://rainbow-trading.co.jp/
コリアブックセンター http://www.krbook.net/

(文責 フランシス)