南米アルゼンチンの大統領選挙で、中央銀行の廃止や通貨のドル化など過激な政策を掲げるミレイ氏が当選したことで、金融市場が同国に注目している。ミレイ氏は「南米のトランプ」などと言われているが、表現の方法はともかく、(経済政策に限って言えば)意外とまともなことを主張していると言えなくもない。従来とはまったく異なる金融政策は実現可能なのだろうか。
アルゼンチン特有の産業構造
アルゼンチンは典型的な放漫財政とインフレの国であり、過去、何度も経済的な破綻を繰り返してきた。戦前のアルゼンチンは、先進国として豊かな生活を謳歌していたが、戦後の工業化の波に乗り遅れ、急速に先進国の地位から脱落。現在では新興国並みの所得水準しかない。先進国の地位から脱落するというのは非常に珍しいケースであり、多くの専門家の関心を引き寄せてきた。
アルゼンチンは農業が盛んな国であり、昔も今も輸出の主力は小麦や牛肉などの農作物である。こうした産業構造から、同国ではでは昔から農業資本の力が強く、農地を所有する資本家と労働者という大きな対立軸が存在していた。
広大な農地を所有する資本家にしてみれば、農作物は一次産品であり工業製品と比べると生産性は著しく低いものの、規模が大きければ絶対値としてはそれなりの収益を確保できる。無理して新しい産業を模索するよりも、農地から安定的に収入を得た方が良いという判断になりがちである。
一方、政治の側は、労働者として安い賃金で働く国民の不満をうまく吸い上げ、バラマキ政策を実施する傾向が強かった。戦後のアルゼンチン政治を代表する政治家といえば左派ポピュリズムで知られるペロン大統領だろう。
ペロン氏はナチスの思想に共鳴し、産業の国有化を進め、労働者の強制的な賃上げを実現した。しかし国有化した産業の競争力は伸び悩み、アルゼンチンは恒常的な経常赤字国に転落。それでも賃上げを継続したことから、アルゼンチンは慢性的なインフレ国家となった。