自然と人が織りなす物語。 | 木蓮日記

木蓮日記

いにしえの都から各地を流れて現在は東北での生活。ぼちぼち更新していきましょう。

どこかにある穏やかな街で
ちょっと不思議な家族と周囲の人たちが織りなす
一年間の物語。

『キサトア』 小路幸也 文春文庫

12歳のアーチは色彩を判別できないが
天才造型作家として注目を集めている。
夜と昼、真逆の時間に眠る双子の妹・キサとトア、
”風のエキスパート”として街の人に頼られている父親と
四人で暮らしている。
双子岩の伝説や、父の仕事絡みの揉め事、
アーチの作品の盗難事件…。
ゆったりした時間が流れる街での行事、
街に住む人、訪れる人。
海から登る朝陽と海に沈む夕陽。
その両方を眺められる街での一年間の物語。

表紙の美しさに衝動買いしてしまいました。
物語も表紙から想像する通り、優しく温かくて
読み終わって幸せな気分になります。
不思議な設定の街と人々。
初めて触れるはずなのに、どこか懐かしさを感じます。
作中でアーチの父や他の登場人物が語る大切な事が
現実の世界にも通じるからでしょうか。

芸術家としてのアーチの能力や
同じ時間には起きていられない、真逆の時間を過ごす
双子のキサとトアの病気も不思議ですが、
何と言っても”エキスパート”と呼ばれる
父・フーガの能力が物語の根幹でしょうね。
後半に登場する”水のエキスパート”が語る言葉も
フーガと同じく考えさせられます。
自然と人が対立するのではなく、
人が自然を征服し破壊するのではなく、
それぞれが共存するために繋がっている事を自覚する。
今目の前にあることだけが大切なのではなく、
大きな世界の一部分で
目に見えない色んな物と繋がっていることを考える。
環境問題として堅苦しく考えるのではなく
こうして物語で示される方が
心に残りますね。

双子岩に関する不可思議で恐ろしい伝説や、
大人たちの間で持ち上がる不穏な空気、
利益を目当てに騙され盗まれるアーチの作品。
善人ばかりが登場する訳ではありませんが、
それでも周囲の人を疑わず、仲良くして行こうとする
姿勢が物語を優しく紡いでいきます。
冒険や謎を見つけて突進していったり
大人の事情に傷つく子供達と
彼らを見守り、助言する大人たちの
距離感がなんとも心地よいです。
物語の終盤で新しい家族が増え、
その事でますます成長するアーチと
白夜の国から帰ってきたキサとトアが
並んでいるラストシーンが何とも愛おしい。
エピローグっぽく収録されている特別編も含めて
読んで良かったと素直に思える物語です。