リズムについて その6 | a day in my life

リズムについて その6

ところで、民族音楽あるいは近代音楽には、「5拍子」や「7拍子」などの変則的なリズムが時々見られる。
多くの場合、4(2)拍子と3拍子の混合(複合)。つまり「2+3」なら「5拍子」、「4+3」なら「7拍子」になる。

一見ひどく複雑そうに思えるが、例えば民族舞踊のダンスの中で「手をパンパンと叩いて(2拍子)、ぐるっと回る(3拍子)」というようなアクションを考えた時、これは「1・2」+「1・2・3」の「5拍子」こそがきわめて自然であることに気付く。

前にも書いたように、人間にとっての基本は「1、2、3」まで。そして踊る振付の基本は「直線的なステップ」と「回転するステップ」の組み合わせである。
とすれば、リズムの基本が「踊る」…という点にある以上、振付やアクションと密接に関わるリズムが、複合拍子になることは、別に不自然でも何でもない。
さらに、この複合の具合が、民族独特の「踊り」と「音楽」に結びつくことも当然と言うことになるだろうか。

この複合拍子をアンサンブルとして複数組み合わせると、「ポリリズム(複リズム)」になる。

この「ポリリズム」というのは、現代音楽の手法としてはストラヴィンスキーが「ペトルーシュカ」で全面的に取り入れた例が有名。これは、例えば4を刻んでいるリズムの上で、5拍や7拍単位のメロディやパッセージを重ねて鳴らす手法。複数のリズムがポリフォニックに複合して同時進行するわけである。

これも、2つの並行ポリくらいなら一種の崩しリズムに聞こえるが、3つ4つと重なってゆくとある種のカオスに聞こえてくる。(実際、ストラヴィンスキーが目指したのも、様々な舞曲があちこちから聞こえてきて雑踏になってゆく描写であり、その点では見事な使い方だ)


そのさらなる進化形として、近代(現代)になって登場した特殊なリズムに「変拍子」というのがある。

これは「4拍子」「3拍子」「5拍子」ところころ拍子を変える作曲法で、いわばリズム崩しの究極に当たるもの。

演奏者にとっては、1小節ごとに拍子が変わるので、安心できず大変な音楽だが、それもそのはず。その裏には「ずっと4拍子や3拍子が連続すると演奏する方もルーズになるので、緊張感を保つため」リズムを変則的にする…という作曲者の思惑もあったりする。

ある意味では、人間にとっての「1、2、3まで」という限界を超えた音楽への挑戦と言えなくもない。

もっとも有名な、そして凄まじい変拍子の例は、かのストラヴィンスキーの「春の祭典」だろう。


1970年代のプログレッシヴ・ロックと呼ばれるジャンルでも一世を風靡したリズム技法だが、リズムというもっとも「直感的」な世界に、数学的な「知性」を持ち込んだギャップが、人間の音楽のある種の臨界を感じさせて秀逸だった。