蜘蛛は嫌われる生き物。
小さくてもつぶされ、殺される。大きければなおさら。

前に、私はその蜘蛛を殺さず逃がしたことがある。
なぜか?
むやみに殺す必要などなかったからだ。
いや、簡単に命を奪うことに嫌気が差していたからかもしれない。あの震災があってから、命というものを深く考え直したのもあったろう。
ともかく理由はどうあれ、私はその時蜘蛛を逃がした。



そしたら最近、お風呂の窓辺にぺたっといたんだ、そいつが。
いや、もしかしたら違う蜘蛛かもしれない。
でもたぶんそいつだ。

ぺたっとこちらを見て、じっとしてる。
窓を開けてやれば、明日にはいなくなってるだろう。
そう思っていたが、そいつはそこにいた。
次の日も、また次の日も。

私は気味が悪くなった。
死んでるんじゃなかろうか。
そう思って、台所から持ってきた割り箸でつついてみれば、なるほど、生きているのだ。

つつかれたのとは反対にぴっと小さく動く。
しばらくすると蜘蛛は先の位置に戻った。

何のためにいるのか。
まさか恩返しなどあり得まい。

毎日そいつを見るたびに、少し愛着がわいてきた。
なんだって蜘蛛なんかにと思うかもしれないが。

私はいつしか蜘蛛に語りかけ始めた。いや、単なる独り言に近いかもしれない。

昨夜見た夢から今日のランチメニューの愚痴まで、他愛のない話を。

色恋沙汰は私には皆無だった。それも苦笑混じりに話した。

蜘蛛は何も答えなかった。
私も答えを求めてはいなかった。

ある晩、私は問うた。
なぜ、そいつがここに居続けるのか。
蜘蛛はやはり答えなかった。
かわりに次の日、蜘蛛は消えていた。

何だか寂しかった。
黒いあいつがいない窓辺はいつもより殺風景だった。

蜘蛛は私に何を残したのだろう。
そんなもの、私はたかが小さな蜘蛛に求めていたのだろうか。

蜘蛛が消えた夜、私は久しぶりに月を見上げた。



冬の月は凍りついたように青白かった。



(あとがき)
お題小説「蜘蛛」でした。
これがお題小説といえるのかわかりませんが。
蜘蛛って助けるとわかるみたいなんですよね。
殺さず逃がしてやるといろんな種類の蜘蛛が近づいてくるようになるんです。
小学生の頃、不思議に思ってました。
近頃同じようなことが起こったので書いてみました。

私事ですがまもなく有り推、前期試験なのです。
有り推で受かれば、バレンタインデーは浮かれて過ごせます←
頑張ってきます(^^ゝ