エドワードは頭を振り、忌まわしい過去を消し去ろうとした。
そして、キャシーとは目を合わさぬまま、病院を出た。

メールを知らせる携帯。
…リズからだ。
何とも複雑な過去を背負っているな、彼女は。
まぁ、僕も言えた口じゃないが。

メールにはピーターの意識が戻ったとあった。
じゃあ明日くらいに、この手紙と暗号の話を訊きに行くとしよう。



次の日。
エドワードは例のお気に入りの紅茶を買いに店に向かっていた。
すっかり春らしくなり、むしろ汗ばむほどの日差しだ。
子供たちは公園の噴水ではしゃいでいる。

『アレフ・コクマー』
このカフェの名前である。
アレフは愚者、コクマーは父を意味していたと思う。
しかし、どうしてこの名前なのかは不明だ。

ドアノブに手をかけ、軽く押す。
紅茶やコーヒー、菓子の甘い匂いが胸を満たす。
樹齢数百年の木をくりぬいたかのような雰囲気を醸す、この店。
木ではないものはおそらく、レジとケーキを並べてあるガラスくらいだろう。
普段、これほどまでに木に囲まれる事は少ない。だからこの店は不思議な雰囲気を持っているのだ。この店が好きな理由はそこにもある。
カウンターにはいつもの彼女がいた。


「やぁ、ダイアナ」


「エドワードさん!いらっしゃいませ。今日もいつものですか?」


ブルーの瞳を輝かせ、にっこりと笑う彼女。
しかし、僕は戸惑ったように首を傾げて見せた。


「今日はこのクッキーをもらえるかい?」


「プレゼントですか?」


「まぁね」


意味ありげに片眉を上げるダイアナ。僕も意味ありげに頬を緩める。

クッキーを包むとき、ふと、ダイアナは髪を耳にかけた。
見覚えのあるピアス。
誰だっけ、同じようなピアスをしていたのは。


「はい、ラッピングしましたよ。喜んでもらえるといいですね」


「あぁ、ありがとう」


少しひきつったような笑みで、コインを置いた。
店を出て、ピーターのもとへ向かう。

衝撃の言葉を告げられるとも知らずに。