円高招く「イソップ相場」の恐怖=ロンドン・上杉素直(10/12/25)
 
イソップ童話に出てくるコウモリの寓話(ぐうわ)を覚えているだろうか。
鳥の一族と獣の一族が争いを繰り広げたとき、
コウモリは鳥が有利になれば「翼をもっています」と鳥につき、
形勢が逆転すると「毛皮と牙があります」と獣の側へと回った。
だが、寝返りを繰り返すうちに誰からも信用されなくなり、
暗い洞窟へ身を潜める結末を招いてしまった――。
 
「鳥と獣」を「先進国と途上国」に置き換えて今年の円高進行を解説しているのが、
みずほコーポレート銀行欧州資金室為替ストラテジストの本多秀俊氏だ。
日本の振る舞いは国際金融の世界で寓話のコウモリのように映り、
結果として経済実態を離れた円高を招いているという説だ。
 
日本が“寝返り”を繰り返したかどうかは別にして、その政策スタンスが判然としないのは確かだろう。
中国や韓国が繰り返す為替介入はどちらかと言えば途上国型の手段。
日本もかつては大量の為替介入を続け、円高が進み過ぎるのを防いできた。
 
今年の円高局面に際しても日本は9月に円売り・ドル買い介入に踏み切った。
しかし、その後も続いた円高局面で政府は2度と介入に動かなかった。
むしろ、自国通貨売りを続けた韓国を非難するような発言が日本政府から飛び出し、
すっかり介入反対派へ宗旨変えしたかのようだった。
 
仮にいま、急速な円高が進んだとしても日本政府は円売り介入をしないだろう、
というのが多くの外国為替市場参加者に定着した見方。
今年1度きりの介入に対して諸外国から批判を浴びた記憶が当局に生々しく残っているからだというが、
こうした姿勢が市場では「一貫性がない」と受け止められる。
 
本多氏は「日本の経済状況を考えると急激な円高阻止は欠かせない。
問題は市場を円安方向へ向かわせる当局の意志や戦略がはっきりと見えてこないことだ」と指摘する。
 
米国は輸出主導の成長を目指すと宣言し、呼応するような金融緩和でドル売りを誘った。
欧州では周辺国の財政不安が取りざたされるたびにユーロが弱含み、
結果として中核国ドイツの輸出競争力が増している。
カメラの前で市場心理を逆なでする発言を繰り返す日本の政治家の無策が際立つという。
 
先進国も途上国も自国通貨の下落を促す通貨安競争は
11月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)を節目にひとまず収束し、
対ドル最高値をうかがった円高も一服している。
ただ、米国の消費や欧州の財政といった不安要素は来年に持ち越し、
いつまた市場で円買いの流れが強まるかはわからない。「イソップ相場」の恐怖はまだ消えていない。
(日経ヴェリタス)