今日は次男のオタクショップツアーに同行したのですが、コミック売り場で出会いました。
初めて知った漫画家さんです。
名前を見ることも初めて。
全然見る気なく素通りしようとした場所でしたが、視界の隅を「二人のゴッホ」という文字がかすめたので、足を止め。
各巻の見本誌が置かれていたので、パラパラめくってみました。
ほんの数ページ見て、買うことに。
帰宅してからじっくり読みました。
そうくるか…ってなもんです。
むろん、これはフィクション。
だからこそ許される、夢の世界…とも、言える。
だからこそ、ある意味「少女漫画的ファンタジー」色に染め直されたこの「異世界のゴッホ兄弟」の物語は、一瞬だけでも「ホントにこうならよかったな」とさえ、思わせてくれました。
アマゾンレビューは酷評されてますけどね(笑)
まあ…フィンセントという人があまりにも印象強いので、ここまで変えちゃうと「おいおい」ってなっちゃうのはわかるんだけど。
酷評している方達が求めているものは、この作品には、無い。
それだけのことだな。
あと、ここに描かれている「画家の心境」ってものを垣間見たことがあるかどうか…っていうことでも、いささか票が別れるようにも思います。
まあ、もっと掘り下げてもいいなって思うところはあるけれども。
ここ止まりだからファンタジーとして楽しめる…っていうのも、あるかな。
ネタバレしたくない内容なので、詳しくは書きません。
でも、読み終わった時、「神様ありがとう」って、思いました。
よくぞ、このような作品を描く人をこの世界に送り出してくださいました。
ただ、「このマンガがすごい!2014年 1位」っていうほどなのかどうか…ってのは、ややビミョーかな。
私の心の師匠は北斎です。
でも、ゴッホも、なんかいろいろと微妙な位置づけではあるけど、その一人。
そうは言うけど…ゴッホの絵は、私には、強烈に好きな絵がほんの数点あるだけで、基本的にはそんなに好きというほどではありません。
ただ、彼の人間像…というか…
前回(2011年)名古屋にも来たゴッホ没後120年記念展のサブタイトルは、
「こうして私はゴッホになった」
でした。
「ゴッホはいかにしてゴッホになったか」ということが、私にはものすごく関心があるところ。
ゴッホ=炎の画家 というイメージなんだけど。
どうも…なんか、違う気がする。
プロデュースされた姿が、後々さらに偏っていき、一般大衆が「見たいと望む狂気の画家の姿」をどんどん作り上げていったのじゃないのか…って、思う。
フィンセントはテオに殺害された、という論旨で書かれた本もあるし。
確かにね…というほどに、テオの人生は兄一色。
兄のために生き、働き、カネを稼ぎ続けたと言っても良いような人生。
兄が逝去してから、わずか1年で自分もこの世を去っているテオ。
このコミックに描かれるような天才的な画商でもなけりゃ、こんなとんがった人でもなかったであろうテオ。
このコミックに描かれるような、ぼんぼんのほほん~としたアホみたいなピュアな人ではなかったであろう、フィンセント。
まあ。
この漫画家さんが、ゴッホの「作品を愛好」してはいないであろうと思う箇所は多々、感じた。
なんたって「これほどの絵を描く男」として兄を語る時にテオが示した作品
コレ↓ 【星月夜】
これは、私が執着というくらいに好きな絵。
これを見るために、妊娠中に大きな腹を抱えて東京まで行った。
この時他にどういう絵が展示されてたのか、全然記憶にないくらい。
でも、この絵は。
小さい
のですよ。
画像や図版だけで見ていたらわからない…想像もできないくらいの、小さなサイズでした。
このコミックの中で描かれているくらいの大きさはある…と、私も、思ってた。
けど、違ったの。
小さかった。
驚くほどに。
原画を見なかったら、このコミックに描かれている図が、すんなり入ってきただろうな。
でも。
それも。
このコミックの物語を「別の世界でのゴッホ兄弟」と思って見れば。
まあ、いいか…
って、思う。
「兄さんはずっと、俺の人生の全てだった」
劇中で呟くテオの言葉は、この地球上に居たこの世界のテオにとっても、同じだっただろう。
甘いファンタジーとしてのパラレルワールドの中でだけでも、フィンセントが平穏な心でのんびりと過ごせた人生ってのが、あってもいい。
おそらく…この作中に描かれるフィンセントと、本物の彼とは、「あいつには先天的に○○がない」と言われたものは、真逆だ。
○○…の中には、感情が入る。
この作中で「先天的に無い」とされた感情は、本物のフィンセントにとっては大変にお馴染みで、それが彼の人生を破壊したと言っても良い。
真逆なフィンセント。
人間の人生…という観点で、こういう世界があってもいいかな、って思う。
ただし。
ここに出てくるようなフィンセント・ヴァン・ゴッホであったなら、あの作品達は生まれることはなかっただろう。
残念だけど。
でも、よいフィクションだと思います。
凡庸な人間が、どのように逆立ちしたって努力したって、その高みには行けない存在。
それを我が事として感じられるかどうか…っていうことでも、この作品に対する感じ方は違ってくるだろうな。
それは読み手の勝手な補完でしかない…のだけど、そういう補完を呼び起こすのは作品の力だ…と思うし。
出会えてよかったな、と、思います。
もし…もしも。
「いや、これこそが、現実のフィンセントの真実なんだよ」
…って、そんな話になったとしたら?
それは、とても幸せな「種明かし」だな…って、思います。
その仕掛けをやってのけたテオにとっても。
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