甘きハニーが好き | 隠者の遠近見聞思録 Ⅱ

隠者の遠近見聞思録 Ⅱ

不動産業については見るべきほどのものは全て見たつもりでいた街の独り不動産屋だった男が、世の中の森羅万象を遠近見聞思録する。

ソングテーマの「ハニー」に連想して詠める歌、3首。


1

そのかみは 辛き地酒を 好みしが

甘菓子愛づる 人とはなりぬ


そのかみは からきじざけを このみしが

あまがしめづる ひととはなりぬ



その昔、若かかりし頃、「酒と女、どちらを取る…?」と、選択を迫られた時、迷うことなく「酒!」と即答できたものでした。


その後、年齢を重ね50代になっても、それは変わらなかったのに、思いがけないちょっとした心の変化で、酒を飲まなくなって数年が経ちました。


酒好きの頃は、旅先でも、その土地の地酒ばかりをしこたま飲んで酔っぱらってしまい、名所旧跡などもずいぶん回ったハズなのに、ほとんど記憶にないありさまです。


そんな酒好きが、今では、地元吉川の老舗和菓子屋さんの甘いものばかりを好む男になりました。


60年の間、ジッチャンが営々として続けてきた伝統の技術とお店を、このほど、お孫さんが受け継いだ、吉川神社となりの老舗和菓子屋さんです。



2

世間は 苦さ辛さの 多ければ

甘き誘ひの 罠も多かり


よのなかは にがさからさの おおければ

あまきさそいの わなもおおかり



万葉歌人の山上憶良(やまのうえのおくら)に、貧窮問答歌(ひんきゅうもんどうか)という一連の歌があります。


世の中を、不条理で生きにくいとか辛いとか嘆いても、人間は土地に縛り付けられていて、自由に空を飛ぶ鳥のように、どこかに飛び去っていくこともできないという人生嘆きの歌です。


昔も今も、人間は少しも変わりません。


昔は貧しく、今の時代は豊かだと思うのは、それは思い違いや錯覚で、人の世は、むしろ人間にとってますます生きにくいものになっているように思えます。


辛く苦しい思いが強いからでしょうか、何か甘い誘惑の罠に簡単に落ちることの多い世の中になりました。


これだけ詐欺事件の多い社会も珍しいと思えるほどに、その件数も被害額も想像を絶するものになってしまいました。


ちょっとした心のスキに入り込んでくる詐欺事件、自分は絶対に騙されないと確信していても、何故か引っかかってしまうところに詐欺事件の怖さがあります。


ハニートラップというのも、ありますね。


自分には関係ないと思うところに、思いもしないトラップが仕掛けられていたりします。


人間は他者の善意を信じたいものですが、しかし、残念ながら、同時に悪意への用心を怠ってはならないようです。



3

咲く花の 色香と姿 損なわず

甘蜜のみ味はひ 蜜蜂の飛び去る


さくはなの いろかとすがた そこなわず

みつのみあじわい はちのとびさる


畑の作物には、蜜蜂のお世話になっているものがたくさんあります。


スイカやカボチャなどは、蜜蜂の媒介なしには果実をつけることができないといってもよいくらいです。


その蜜蜂は、可憐に咲く花の間を飛び回って蜜を吸うのですが、同時に、雄花(おばな)の花粉を、雌花(めばな)に運んで受粉させる働きをしています。


蜜蜂自身は、自分がそんな大事な役割を果たしていることは知らないでしょうが、そこがまた自然界の面白いところです。


蜜蜂は、花の蜜を吸いますが、決して花そのものを傷つけることはしません。


十分に目的を達するのに、目的の対象を傷つけないというのも、偉大な自然界の成り立ちを見るようで、感心し感動したりします。


人間もまた、その人のもつ花の色香と姿を傷つけず、互いに、その甘い蜜だけを味わい尽くすことのできるような、そんな人間関係を持ちたいものですね…。