コンピレーション・アルバム23曲目から27曲目までは、ウルトラ・シリーズ関連です。

 23曲目は「タケダオープニングテーマ」です。

 ウルトラ・シリーズが放送されたTBS系日曜夜7時からは、その前から「月光仮面」(1958-59)、「豹(ジャガー)の眼」(59-60)、「隠密剣士」(62-65)などの子供向けのメガ・ヒット番組が放送されていました。武田製薬が提供するこの時間枠の番組冒頭で流されていたのがこのオープニングテーマで、空撮の武田製薬大阪工場の映像のバックに流れる「タケダ、タケダ、タケダ....」の社名コールは子供の心に深く刻まれていました。

       

 

 円谷プロダクションが制作した特撮テレビドラマシリーズの第1作が、1966年1月から7月までの半年間放送された「ウルトラQ」で、続く「ウルトラマン」以降、空前のヒットシリーズとして現在まで営々として制作され続けています。

 24曲目は「ウルトラQ」のメインタイトルです。特殊楽器奏者渡邊淳による音楽か効果音かわからないオーディオに有名な文字が揺れるメインタイトルのビジュアルが冒頭から不思議感をかき立てていました。

       

 メインタイトルに続くタイトルバックに流れるのが25曲目の「ウルトラQ」のテーマです。

 作曲は全体の音楽を担当した宮内國郎です。宮内はこの作品と「ウルトラマン」、ウルトラシリーズの初期2作の音楽を担当して、ウルトラシリーズ全体の音楽の方向付けを行いました。

 元々ジャズ畑の音楽家ですので、音楽のテイストも最近再評価されるようになった1950年代60年代の和ジャズの雰囲気です。

 「ウルトラQ」には、宮内が先に音楽を担当した映画「ガス人間㐧一号」(1960)で使用された音楽が一部流用されています。

 「ガス人間㐧一号」は、「ゴジラ」(1954)の本多猪四郎が監督、円谷英二が特技監督を務めた東宝特撮映画の名作です。同作品は、特撮映画といっても怪獣を前面に出したものではなく、ガス人間の完全犯罪と悲恋を描いたサスペンスドラマ・タッチの作品で、音楽もジャズ、クラシック、ラウンジミュージック、純邦楽など多彩な表現を用いていました。「ウルトラQ」が子供向けの怪獣映画というより大人の鑑賞にも堪えうる社会問題や複雑な人間の心理まで描いたものであった点で、「ガス人間㐧一号」の音楽を流用したのは,、テレビの予算のこともありますが、単なる便宜のためというより、場面の要求に合わせた引用といえるものだと思います。

 「ガス人間㐧一号」のサントラ・アルバムは、ソース・ミュージックを含めて現存する全音源を収録したCDが1995年になってサウンドトラック・リスナーズ・コミュニケーションズから発売されました。

               

 

 「ウルトラQ」の音盤化は、キングレコードからのシングル盤と各社からのソノシートが発売されましたが、放映当初はLPは発売されませんでした。

         

 

  

 

 

 初放送から10年以上たってやっとサントラ・アルバム化が実現しました。

 まず1979年に、「ウルトラマン」とのダブル・フィーチャー・アルバムがキングレコードから「ウルトラオリジナルBGMシリーズ1 ウルトラQ・ウルトラマン 宮内國郎の世界」として発売されました。

 1984年にはコロムビアから単独で「TVオリジナルBGMコレクション ウルトラQ」が発売され、さらに同年、キングレコードからも単独で「ULTRA Original BGM Collection 1 ウルトラQ」が発売されました。

   

 アナログ時代にテレビ番組のサントラ・アルバムが発売されることは非常に希で、しかもこの作品のように目立った主題歌がない作品のアルバム化はあまりないことでしたが、後にヒット・シリーズ化した最初の作品であったことと、作品自体への特撮ファンの強い支持があったことでセールスも見込めるためレコード会社も重い腰を上げたのだと思います。

 CDの時代になってからはさらに充実したアルバムが各社から発売されました。

 1987年にキングレコードが「空想特撮シリーズ ウルトラQ総音楽集」を2枚組で発売したのをはじめとして、1999年にはVAPが「ウルトラQ ミュージックファイル」、「ウルトラQ ミュージックファイル vol.2」を発売、さらに、2004年には1984年にコロムビアから発売されたLPがオリジナル・ジャケットでCD復刻されました。

   

 収録時間に余裕ができたCDではLPの時代には収録できなかった曲が多数収録されるようになりましたが、各社の収録曲はそれぞれ異なっており、発売される度にあのキューは今度こそ入っているだろうと期待しながら買ってみたら、ビミョーなバージョン違いがあったり、結局収録されていなかったりと、悲喜交々を味わうことになりました。

 ウルトラシリーズは特にその傾向が顕著ですが、円谷プロダクション創立30周年記念盤としてそれまでの同プロの全53作品を1992年にコロムビアがCD15枚組で発売した「円谷プロダクション ヒストリー・オブ・ミュージック 」では、各作品とも極力重複を避けて未収録キューが収録されているほか、オリジナルの音源が失われているキューについては新しく録音し直して収録するなどマニア心をくすぐる編成がなされていました。ただ、38,000円という高価なセットはとても手を出せるものではなくかなりマニアの私もこのセットだけは買えないでいました。

 ところが、神はマニアに微笑むものです!

 20年ほど前まで東京で年1回日本レコード協会が主催する「廃盤セール」という、全レコード会社が前年廃盤にしたCDを7割引で売るというイベントが開催されていました。私は毎回朝一で並んで貴重盤を探し求めていましたが、ある年のセールで、このセットが2組出ていました。7割引でも結構な値段でしたが、当然、開封用と保存用に2セットとも買いました。

 ライバルが買った後に残った2セットなのか、元々2セットだけだったのかはわかりませんが、もう一人の誰かが欲しがっているかもしれないという気持ちは頭をよぎったものの、「マニア」という悪魔が心を支配する廃盤セールでは欲望と本能だけが行動原理でした。